3.ようやく手にした幸せ
ひよりは昼間、よく俺の部屋にやってくる。
学校から帰ると、鞄を置いて、ノックもせずに顔を出す。
「恵、玉犬出してもらってもいい?」
「……またか」
「だめ?」
「……少しだけだぞ」
術式を解くと、二匹は待ってましたとばかりに飛び出してきて、ひよりの足元に突進した。
「わ……!」
よろけながらも、ひよりは笑ってしゃがみ込む。
「やっぱり、かわいい」
しっぽはぶんぶん振られ、顔は遠慮なく押し付けられる。
そのうち一匹はひよりの膝に頭を乗せ、もう一匹は俺の足に体を預けてきた。
「お前ら、分かりやすいな」
「恵のこと、好きなんだと思う」
「わかってる」
床に座ったまま、二人と二匹でしばらく転がる。
ひよりは、ずっと楽しそうだった。
声を上げて笑うたび、玉犬たちもつられて騒ぐ。
……前は、こんなふうに笑わなかった。
しばらくして、廊下から津美紀の声がした。
「二人ともー、手伝ってくれるー?」
「はーい!」
ひよりがすぐに立ち上がる。
キッチンでは、津美紀が野菜を切っていた。
「ひよりちゃん、洗い物お願いしてもいい?」
「うん」
エプロンを借りて、皿を運ぶ。
「割らないようにしろよ」
「気をつける」
言わなくてもいい一言が、つい口から出る。
たぶん割らないと分かっていても。
夕飯の準備が終わると、三人で食卓を囲んだ。
ひよりは、学校の話をする。
クラスのこと。先生のこと。どうでもいい出来事。
でも、それを話す声は明るくて、よく笑っていて、前よりずっと自然だった。
食べ終わると、ひよりは自分の部屋に戻る。
「じゃあ、おやすみ」
「おう」
本を開いていると、しばらくしてドアが少し開いた。
「……恵」
「今度はなんだ」
「宿題、ここでやってもいい?」
「……静かにやれ」
「うん!」
机の端に座って、ノートを広げる。
鉛筆の音が、規則正しく部屋に響く。
前より、だいぶ賑やかだ。
ページをめくる音と、ひよりの気配が、すぐ隣にある。
……悪くない。
ひよりが家族の一員みたいになって、俺たちの家の中も、少しだけ明るくなった気がした。
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