5.何気ない日常
それから、俺とひよりは高専に入学した。
しばらく経って、任務にも、寮生活にも、少しずつ慣れてきた頃だ。
ひよりも、もう「新しい環境に緊張してる顔」はほとんど見せなくなった。
今日の任務も、拍子抜けするほどあっさり終わった。
「よっしゃー! 今日の俺、結構いい動きしてなかった!?」
帰り道、虎杖が一人でやたらとテンションが高い。
「自分で言うな」
釘崎が、呆れたように返す。
「でもまあ、今日は大した被害もなかったし、楽な方だったわね」
「うん。ちょっと静かすぎた気もするけど」
ひよりが、少し首を傾げて言う。
「……静かすぎる、って何だ」
「なんか、出番待ちみたいだった」
「緊張感ないわね」
「そうかな」
ひよりは少しだけ笑った。
こういう何でもない会話をしていると、ここがもう「日常」になってきているんだと実感する。
「なあなあ、帰りにさ!」
虎杖が、急に手を叩いた。
「マック寄らね? 反省会!」
「はいはい。どうせあんたが食べたいだけでしょ」
「正解!」
「正直でよろしい」
結局、そのまま全員で寄ることになった。
店に入って、カウンターの前。
「えーと……」
ひよりがメニューを見上げて、少し考え込む。
「ポテトと……ナゲット、どっちにしよう」
「どっちかにしなさい」
釘崎が即座に突っ込む。
「……両方は?」
「食べきれる?」
「たぶん」
「たぶんで注文するな」
結局、ひよりは無難にセットにした。
席について、トレーを並べる。
「じゃ、反省会な!」
虎杖が、ポテトを一本掲げる。
「俺、最初の突っ込み、ちょっと早すぎたかな?」
「ちょっとどころじゃないわよ」
「でも、あれで注意は引けてたし、悪くなかったと思う」
ひよりが言う。
「おお、清華優しい!」
「……評価が甘いだけだ」
「伏黒は?」
「……もう少し周囲を見ろ」
「はい……」
「ひよりは?」
「私は……途中で今かなって思ったんだけど、少し遅れた」
「それ、ちゃんと反省してる?」
「……してるつもり」
そう言いながら、ひよりはポテトを一本つまむ。
「でも、こうやって話すの、ちょっと楽しいね」
「だろ?」
虎杖が、嬉しそうに言う。
「なんか部活みたいだよな!」
「……どんな部活よ」
「呪術部!」
「絶対入りたくないわ」
ひよりは、くすっと笑った。
その横顔を見て、ふと思う。
高専に来てから、ひよりは同学年の仲間ができて、ずっと楽しそうだ。
そこには、昔の面影はほとんど見えない。
「……もういい時間だ。戻るぞ」
「うわ、伏黒またまとめ役ムーブ」
「誰が」
「ひより、飲み物ちゃんと持った?」
「あ、忘れてた」
「ほら」
「ありがとう」
そんなやり取りをしながら店を出る。
三人の少し後ろを歩きながら、思う。
……ちゃんと、ここで日常をやれている。
それでいいはずだ。
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