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「初めまして!俺の名前はパイロン・カーディナルってんで気軽にパイロンって呼んでくれても構わないよ〜!以後お見知りおきを!あ、使い方あってる?でさ、お前らもヘイヴン?すげぇじゃん!4人ヘイヴン生が集まる奇跡ヤバくね?これでチーム分けの時同じだったら伝説取れるわ」
パイロンと名乗った青年はティールの横に座った途端、人懐っこい無邪気な笑みのまま勝手に始めた自己紹介を終わらせた。一緒にいた少女に目配せをおくると、少女は一息ついて口を開く。
「アレキサンダー・ブランク」
名前だけを告げた少女、アレキサンダーはそれ以上何も言う事は無く、持っていた小説を開いてしまった。
「アレクちゃん今ちょっと緊張してるみたいでさ、無口だけど悪い子じゃ無いよ」
「緊張してる風には見えないけど…」
「こまけぇこたぁ良いんだよ!」
ケラケラと笑うパイロンを見て、ランスロットとティールは苦手な類だと心の中で一線を引いた。
「まぁまぁ、ファウナスの青年よ。グミを献上しようでは無いか」
「そいつが食ってたクソまずい菓子じゃねーか、いらねー…」
思わぬ言葉に開いた口が塞がらなかった。ランスロットは目を見開き、思わず立ち上がってパイロンを見下す。
「…何で俺の事、ファウナスって…」
驚愕するランスロットをよそに、パイロンは首をかしげてグミを口に放り投げた。
ランスロットの服装では、ファウナスの特徴が隠れていた。ニット帽を被っているお陰で狼の耳は隠れ、上着の裾を腰に巻き付けているので尻尾は見えない。何も知らない人から見れば普通の青年だろう。しかし、それをいとも簡単に見抜いたパイロンを警戒心むき出しで睨んだ。
「は?何急に怒ってんの?ウケる。カルシウム不足?別にファウナスかどうかなんて関係ねーじゃん」
馬鹿馬鹿しいと、呆れた様に肩を竦めるも、ランスロットの警戒は解かれない。
「え、なに…理由言わなきゃ許さない系男子?めんど…。今日の気候暑いくらいだしニット帽被る奴なんていねぇぞ、獣耳の輪郭でニット帽の形が不自然だし上着も腰に巻くとか暑いのか寒いのかハッキリした方が良いぜ。はいQED」
「…チッ」
「その反応当たっちゃった?いえーい勝ち!懸賞品くらい寄越せよな!てか誰だって目凝らしたら分かるってそれ」
隠したつもりかよと笑いながら黒いグミを顰めっ面で食べるパイロン。さも当然と言ったような態度でファウナスである理由を述べたので、ランスロットは居心地が悪そうに目をそらした。
「その様子じゃいい思いはしなかったんだろうなぁ?ファウナスって大変だな」
「そんなの、俺が一番知ってんだよ」
「あっそ」
ニット帽と眼鏡を外すと、髪と同じ色をした獣耳が立っていた。ティールとアレクは彼がファウナスであるという事実を今知った。
パイロンは視線を床に落とす。憂いを帯びた表情に、ランスロットは何も言えなくなる。
「そんな過去があったんだな…お前に過去が…」
伏せた頭で表情が分からない。体が小刻みに揺れたと思いきや、次第に小刻みは不自然に大きくなった。
「そんな…そんな図体して、メンヘラみたいに過去をズルズル引っ張って…いや、マジ…ッ、無理!ウケる!ばっかじゃねーの!!アハハハハハハ!!!」
突然の爆笑に、ティールの体がビクリと揺れた。ランスロットは癪に触るとはこういう事なんだろうなと、怒りながらも冷静でいるという新鮮さに、むしろ感動を覚えていた。
「…喧嘩売ってんのか」
「は?顔に似合わず繊細なんだなぁ〜〜って笑っただけだけど?あ、機嫌悪くした?ごめんね?悪いとは思ってないんだわ全く」
「あ?つまり馬鹿にしたって事だろ。常識がねぇのか」
「常識があったからお前のギャップに笑ってやったんだよ」
いけ好かないパイロンの態度に、遂に怒りが冷静さより勝った。パイロンは待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、強めの口調で言い争いを始めた。
ティールは開いた口が塞がらない。ランスロットの注意をニヒルな笑みで一蹴するパイロンを見て、きっとさっきのは彼なりの励ましの言葉だったのだろうと理解した。
言い争いをしている二人の隙間からアレクに向けて、ティールは話しかけた。
「いい友達だね」
騒がしい室内にも関わらず、ティールの小さな声を聞き取れたのか、アレクはほんの少しだけ眉をひそめてティールを一瞥し、呆れたようにため息をついて再び本へ視線を落とした。
アレクが一体何を伝えたかったのかティールには理解しえなかった。もしかして見当違いだったのだろうか。それでも、パイロンは確かに彼を励ましたに違いない。そうでなければわざわざファウナスである事より、ランスロットとしての批判はしないだろう。
その方がより悪質なのでは?と思ったが、言い争ってる二人と小説に夢中なアレクを見て、不思議と心地よい気分になっていた。
「君らとチームだったらなぁ…」
ふとしたティールの言葉に、パイロンは玩具を見つけた子供の様な笑みで、喚き散らすランスロットの口を手で抑えてティールに顔を向けた
「え?マジで言ってる!?こんなむさ苦しい奴と?どんなチームにする気だよ!」
「ん゛ん…!ブハッ!おい、むさ苦しいって何だ!俺だってこんなクズとは願い下げだ!」
「騒がしいですよ」
あまりの喧騒にアレクは本を閉じて2人を睨みつける。どうやら皆反対らしい。ティールから思わず乾いた笑い声が出た。
「もしかしたら、なるかもしれないじゃないか、チ、チームPLAT(プラット)とか…」
「俺はLじゃなくてRだ。あと頭文字にこいつの文字があるのが気に食わねぇ」
「なんで?最高じゃん!チームPLTA(プラネタリアン)も候補に入れよーぜ」
「俺はRだっつってんだろ!」
「は?Lは別の人ですぅ。入れると思ったんですか?自意識過剰!お前の席ねーから!」
「てめ…っ、初対面のやつによくそんなこと言えるな…!」
「…チームTRAP」
ポツリと呟いたアレキサンダーの言葉に、3人は動きを止めた。「ただの戯れ言です」という言葉はパイロンの声でかき消された。
「チームTRAP!いいんじゃない!?めっちゃカッコ良くない!?なる気ないけど!」
「悪くは無いな、なる気は無いが」
「はは…」
どこまで行ってもチームを組む気は無いのかと落胆する。確かに、向こうに行けばどうやってチームを割り振りするのかティールは分からない、4人とも別のチームになるのかもしれない。しかし、この3人とチームを組めばきっと上手くいく、そんな気がするのだ。
ティールはもしもの事に期待を抱いて再び外の風景を眺めた。
壮大な森を駆け抜ける列車を眺める黒い影を、4人はまだ知らない。
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