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 病院の外に出ると、とても空気が澄んでいるような気がした。遥か彼方が、燃えるように紅い。あの太陽は、燃えている。

 俺は、一つ静かに深呼吸をしてみた。茜と紫と紺が混じる空気を吸い込む。

『もしもその日に炎がなかったら、どうしていましたか?』

 山崎に聞かれた言葉を思い出す。それには答えなかった。山崎も、もう起こってしまったことに返答なんて待っていなかった。

 紫色の落日。そろそろ夜が全てを支配する。何度、何億日この景色を見ても、それは変わることがない。流れて、辿り着くだけだ。

 一息吐いて、俺は駐車場へ歩き出した。

 もしもあの時助けてくれたのがあんただったなら。

 そう思えるだけで、ほんの少し楽になる。だが、今まで以上に悲しかった。

 立ち止まって一度眼を閉じてみる。あの日の若い背中に、紅紫の夕陽を感じた。
 風が頬に触れ、体温を奪っていくような気がした。

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