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「来週は水曜日に来てくれないか?」

 孝信は、俺が車から降りるとそう言った。普段は火曜日である。
 何か用でもあるのか。

「ああ、分かった」

 返事をすると、メルセデスが走り去った。

 夢から覚めてもまだ、話は頭の中で進んでしまう。
 父は、母の浮気をいいことに、浮気していた。

 自分がまた頬に触れていることにふと気が付いた。

 あれから兄は目指していた六大に入るための勉強をやめた。そして母や俺に毎日のように暴力を奮った。

 父はほぼ帰ってこない。母の浮気をいいことに、自分も浮気をしていたのだ。
 父が帰って来る日は、兄は自室に籠るようになった。
母はもともとの育児放棄と恐怖とで兄には話し掛けない。父も、そんな母にも兄にも呆れて何も言わなかった。

 部屋についても明かりは点けないままベットに倒れ込んだ。

 ぼんやりと、右手を上に翳して眼を閉じてみる。夜の静けさと頭を巡る記憶が胸の中で炎を燃やす。

 めらめらと燃える火はやがて、家と家族を燃やして灰にしてしまった。
 兄に熱い手で足首を掴まれ、倒れた。兄はそれから馬乗りになって俺の首を絞めた。
 柱に頭をぶつけて気絶した兄。俺が押し飛ばしたんだ。最期に兄は、俺に言葉を掛けたのに。俺は一切聞かなかった。

 兄が点けた火は、全てを灰に変えた。俺から、奪ったんだ。それと同じく、呪縛が生まれた。

 俺は一人で逃げたんだ。誰一人助けようとなんてしなかった。

「何でお前なんかが生きてるんだ」

 兄にそう言われている気がしてならない。
 そんなの、俺だって分かんない。

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