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 女が見下ろしている先で譲二は這い金と銃を詰める先。
 トレンチコートがマカロフを拾った。
 如何にも涼しい顔だが女が「おいローウェル」とトレンチコートに声を掛ける。

「そんなチャイニーズクソコピー、弾だけ抜いて捨てとけよ、使えねぇ」

 ローウェルと呼ばれたトレンチコートは一通り、まるで珍しいものを手に入れたかのようにくまなくマカロフを眺めるのだが、息を吐いてから、恩名に言われた通り素直に弾を抜きコートのポケットにしまった。指でわっかを作り金の合図。

 「んなわけねーだろ」と女は言うが確かにそれは少し、コピーだろうが高かったはずだ。

「いや、確かにそれ高かったでfth」

 噛んだ。
 expensifthに女は「は?」と疑問そう。
 恐怖でしかない。

 譲二にはラリったように「いくすぺんしぶ、いくすぺんしぶ!」と訴えるがさらに「はぁん!?」。

 Huhだろうか、しかしそうだこいつは多分アメリカ人じゃない。

 ふっと声を立てずにローウェルが口許を押さえ顔を背けて吹き出したのが見える。

 どうしてこのシュールな状況にウケてるんだろうかとそれすらエキサイティング、いやサイコパスだと譲二の気が遠くなりそうな時、ふとローウェルの首筋にわりと派手な切り傷を見つける。

「あっ、」

 理解した。

 片方は何言語も通用しない、唯一、譲二の「同郷かもしれない」人物は話せないらしい。
 商談不成立。業界的には小指がなくなる事案だった。

 自然の摂理か「ゆ、ゆしまああ!」と喚いた隣の島田も小指を抱えて血塗れなのだから、やっぱり俺も死ぬしかないのかもと譲二には思えた。

 これは生き残るのにどうしたらいいのか、この考えは最早生かされない思想。

「ゆしま、お前どうにかしろよぉおお!」

 そうかこの人も言語を理解しない。多分いま一番怖いだろうと察し、「島田さんこれを寄越さないと俺たち帰国できない」と状況を説明するが「ふざけんなよぉお!」やはり理解しなかった。

「おま、お前な、」
「相手はテロです賊ですヤバイです」

 そう言いながら譲二がケースを閉めると「族とか!おい!」。
 ああ違うんだ海賊の賊なんだよとキャパシティーが埋まって行くのに、女が迫ってくるのだから冷や汗が出る。

「ごちゃごちゃうるせぇな」

 銃口が向けられ

「待った!待った!」

 と降参をするも言葉は出てこない。目鼻先でケースを渡してしまおう。
 譲二は女に献上するように差し出し「お納めください」と土下座スタイルで頭を下げた。

「あぁ、そうか」

 女は何かを考え付いたかのように呟き、「てめぇそれ持ってこいよ」と言い捨てた。

「へ…?」

 譲二が恐る恐る顔をあげれば、女はクールフェイス、しかしラリったような、不機嫌なような目をして唾を床に吐き捨てる。

 ああさようならお母さん、勘当したけどボクが悪かったんですと床に祈りを捧げる、
「What are you doing.(なにしてんだお前)」
わけだが、ふいに母国が離れる女の訛った英語に「はい?」と頓狂な思いで面を上げる。

「少し延命だよ、アホ面こいてねぇでさっさとそれ持ってこい」

 唖然とする譲二に女は踵を返したが、ローウェルとそ知らぬ目が合い「あ、はい」とケースを持って立ち上がるのは自然の摂理だった。

 「ゆしま!ゆしま!」と背中のBGMを遮断するように「ここはマサチューセッツじゃないんだけどなぁ」と思考がよぎって、アジア圏だろうローウェルをチラ見する。

 こうしてみればわりと面はよかった。白人ではないが、日本で言うところの色白。いかにもアジア人らしい不健康タイプ。まだ若いか、張りのある首筋の傷は古で声帯手術より歪。より性別すら不明だ。
 と観察していれば横目の睨みが入るもので、俯くしかない。

 よいしょと言いたげに女は入り口となってしまった壁辺りに捨てたロケットランチャーを拾う。

 意外とあっという間だったのかもしれない、警備員が何人か倒れていた。

 ぶっ壊れた壁から世界が開ける。なんて非現実的なんだろうと譲二には少しも実感がない。夢かもしれないなと女の黒髪を眺める。一体何人なんだろう。

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