4
騒ぎのような雰囲気も、不思議となかったが、大使館前だというのに一台の配送トラックが停まっていた。
どう考えても場に合わない。
荷台の前ににこやかで爽やかな白人の男がタバコを咥えて立っている。
「お疲れさーん」
と、男はフレンドリーな雰囲気だが配送業か軍人かわからない薄汚れたカーキの上下に「軍人なんじゃないか」と捉える。ゲリラの仲間か。金髪で短髪。アメリカ軍人かもしれない。体格もそれなりにいい。
ただ男はこちらに驚くほどフレンドリーで、「おや、荷物が増えたねー」と軽い口調でタバコが上下した。
「ちょっと遅いと思ったらこれは荷台で良いのかい?セル」
「どこでもいい」
女は“セル”と呼ばれているようだった。
セルはホルスターからタバコを取り出し火をつける。
「ははー、君なんとなくだけど表の人じゃなさそうだねー。吸う?アメリカンスピリット」
と、譲二に話しかける男はやはり異様にフレンドリー。
物珍しそうにオーバーなほど首を動かして下から上まで譲二を眺めるのに「ミッキー、」とセルが嗜めた。
ミッキーちゃん。
狂気が浮かんだ。
「ちっと時間食ってんだよ、ミッキー」
「早いことはいいことだねぇ。
あっちでなんかあったのカオルちゃん」
ローウェルがそれに首を傾げる。
やはり日本人か、カオルというらしい。
ますます性別がわからないがもうなんとなく男だろう。
「いいから早くしろよ」というセルと「はいはい荷台ね」と荷台を開けるミッキー。
荷台には一人、手錠をかけられ失神している配送業者の男がいた。
そうか、ジャックしたのか。
「はい、ドーゾ。セルも。RPGは流石に荷台」
と、譲二に荷台を促すミッキーの笑顔は爽やか。
反対にセルは「早くしろてめぇ」と愛想なく蹴飛ばして荷台に譲二を詰む。
譲二の頭にジョーン・バエズの歌謡が流れ、視界が一気に暗闇になった。
俺はユダヤでもないんだけどと握るアタッシュケースには俺より価値があるのだろうかと抱き締める。
状況を整理しなければなるまい。
セルがキャンプのライトのようなものを灯した。
そしてセルは、先程とはまた違うタイプのサバイバルゲームでしか使わなそうなライフル、を抱え譲二の前に胡座をかいた。
武器が床に当たる音が響く。
ライフルより多分強そうだ。
引き金の前の突起は、恐らく連発だろう銃弾が光っているし、持ち手のようなデカい突起はなんだか、体力を使うからあるんだろうなという感じ。
そんなものを抱えてどかっと座られてしまえば捕らえられた日本人など「あのぅ…」と、可哀想な仔牛の鳴き声をあげるしかない。
セルは譲二に返事をせず、タバコを咥え、まるでメンチを切るように鋭く譲二を見るのだった。
セルは泣き黒子で青目の美人なんだと知る。
「俺は一体どうなるんですか」
「そいつは誰に頼まれたんだチャイニーズ」
「ジャパニーズですおねいさん」
セルが煙を吐き出した。
反響する声が低く腹に響くようで、「えっと…」と、譲二の頭は真っ白になりそうだった。
「…ジャパニーズ、ヤクザ」
「ジャパニーズ、ヤクザ?」
「そう、ジャパニーズ、ヤクザ」
「なんだ?それは」
「えっと…。マフィアみたいな…カルテル?いや、フーリガンかな」
「…そのわりにクソ弱ぇな」
「あの、マフィアじゃないデス。なんと言ったらいいか…お金を取ったりします」
「ははっ、じゃぁあたしらと変わんねぇな、クソ弱ぇけど」
「多分もっと安全かもデス」
「はぁ?」
セルは咥えタバコのまま、武器の先端になにか、きりたんぽのような、鉄の黒い筒を慣れたように装着し始める。
「軍人でないことはわかった」
そうか、その返し。
やはり一般的なやつじゃなかったかと、尚更状況が悪くなってきたような気がしてきた。
「それは一体なんでしょう」
「AK-47」
「え、えーけぃ」
「アサルトだよ」
「やっぱり普通じゃないやつ」
アサなんたらとはなんなんだ一体。
「じ、じゃぁさっきのは」
「RPG-7?」
「ゲームでしょうか」
「仕事だけど」
「あの、あの違くて」
「少しは黙れないか小僧。喋んの早ぇんだよタコ」
「は、はい」
不馴れな言葉だが恐らくこいつはロシア系だと話してみて感じた。
譲二の身に恐怖が差し迫る中、セルが二本目のタバコを咥え、「それは今から偉い坊っちゃんの所へ持っていく」と静かに言うのだった。
「戦争孤児に支援している政治家の裏はパラフィリアだ。|アポテムノ《死体欠損》とか|ヘマト《血》とか。
楽園には資金がいるということさ。お前らがそれに値するかは疑問だが私には知らんことだね」
「えぇぇぇえ」
「価値がなければ頭すっ飛ぶかな」
「それは…」
「で?オタクのボスの戒名は?」
「…我々はつまりシマを荒らしたということでしょうか」
「さぁ。それについては変態野郎のジャッジメントだろ、興味ない」
「えぇっと…あんたらはじゃぁなんなんですか」
自分の今の身のやり場くらい走らなければならないが。
セルはにやっと笑っては「同郷なんだろ?」と、灰が落ちそうなタバコを挟んだまま、笑ったのだった。
- 6 -
*前次#
ページ: