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この状況下で何故笑えるのか、同郷にしては心理がわからないが、「所謂人質なんですか」と言う無駄な一言には「手土産だよ」と返される。
「セドリックの首でもよかったんだがな」
「…は?」
漸く見えてきた気がした。
「…つまり見せしめでしょうか」
「そんなところだ」
なんだそれは。
譲二は無性にやるせなくなり「だったら、」と、無駄であろうがアタッシュケースをセルに渡すように目の前へ置く。
「これだけでよかったでしょ、何で俺が」
「金になるからに決まってんだろ」
「はぁ?」
「勘違いしてるがお前も私も同等にこの荷物より価値なんてないからな」
何故かその言葉にはっとした。
「そんなぁ…」
落胆もした。
セルはまたタバコに火をつけ「あるじゃねぇか」と笑うのだった。
「頭飛ばすには丁度良いもんが。これなら楽しく死んで逝けるぞジャパニーズ」
「ふ、ざけんなよ!」
「ふざけてねぇけど?まぁ心中察するがくっ喋ってないで祈れば?お前らに帰る場所などないんだから」
「…なんで、」
「まぁ相手が悪かったな」
「知らねぇよそんなの!」
脱力した。
シマを荒らすなど小さい話らしい。
セルはそれから黙ってタバコを吸った。
何が一体どうなった、俺はただのヤクザで買い物を頼まれただけだが、相手はただの政治家、よくあることだったはずだ。
それが全く違う、多分敵対だろう相手に強奪され自分はそれと同等な扱い。極めて運が悪い。そうだ、というかこれは強奪だ。極めて運が、悪い。
しかし強奪、とは。これを盗んだからには何か意味はないものか。そもそも見せしめやら何やらは失敗しなければ起こらないだろうに。
「ん?」
だとしたら。
「まぁ、ここで言っても仕方のない」
ふとセルがそう言って「銃あるかお前」と聞いてきた。
「…一応あるけど」
「あの使えねえコピーか?」
「まぁ…」
セルはふとアタッシュケースをチラ見し「撃ったことあるか」と聞いてきた。
「え、銃ですか」
「撃つと言って他に何がある」
「ま、そっすよねぇ、ないです」
タバコを揉み消したセルはアタッシュケースを開ける。銀、持ち手は黒い拳銃を取り出し「へぇ、」と笑った。
カシャッ、と銃身を滑らせ、シャッターに向ければ硝煙と鼓膜が破れるような爆音が響いた。
トラックも一瞬ガタッと驚いたように揺れる。実際に運転手も驚いたのだろう。
譲二は突然な出来事に耳を塞げなかった、本当に鼓膜は切れたかもしれない。
「なっ、」
「案外いいなこれ」
そう言って少し、クールな表情が和らぐのだからやはり住む世界が違う。
先に捕虜となっていた車の持ち主が「ひぁっ!」と怯えたのが聞こえた。
「へいジャパニーズ」
「へ、へぁ?」
「お前こいつの価格を知ってるか」
「え、な、なんとなく、えっと関税入れて…3万くらいですか」
「お前チャイニーズクソコピーじゃねぇんだぞ」
「はい、」
「だーめだだめだ!」
溜め息を点かれる。
セルは静かに「570ドルだよ」と答えた。
「民間用だからな。
まぁ少々裏では高いけど。元のモデルは590ドルか。
あんな量産型のクソコピー品と訳が違う」
「へ、へぇぇ」
「こいつはしかもフォルムが綺麗だと、後続モデルですらマニアの間で高値取引される」
ざっと円にして6万5千円と言ったところか。確かにマカロフよりは値が張る。しかも、セルの話ぶりだとマカロフはぼられているようだ。関税を入れたら多分もう少し張るのだろうし。
マリファナと合わせたら銃など挨拶程度の値段でしかないのだが、それにしてはいまの状況は大掛かりに感じた。
これを欲している人物も政治家で、売り付けてきたやつも政治家。やくざよりクリーンなはずの者たちは道楽すらも金が掛かる。
「お前、運命変わるかもな」
ふいにそう言ったセルは「ふっへへ、」と笑った。
「…あんたさっき、見せしめだと言ったよな」
「ああ」
「俺は何をトチったんだ」
「弾は撃ってみなけりゃわからんもんだよジャパニーズ」
答えにはなっていないだろうが、セルはそれからまた黙ってタバコを吸い始めた。
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