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「俺もやりたーい!」
「いや、」
「沖田、それはちょっと」
「違う違う。そんな地獄に落ちた成りの坊さんなんてバチが当たりそうだからやりませんよ、その人!」
至って明るく沖田は翡翠を指差し進言する。
「うわ、しつこっ」と翡翠は嫌そう。
「ただならいいですよね?大将の仇も取らなきゃだし」
「…まぁいいですけど」
一同が揃いも揃って「えっ」となるがなんだかんだで翡翠は満更でもなさそう。
「型もなんとなく眺めてわかりましたし」
「え、そういうもんか…?」
「そういうもんやでトキさん。
なんや賑やかなんでその木刀貸してくださいな」
「うわぁ…」
こいつどうするんだろ。
こいつ、相当負けず嫌いだけどあまりに分が悪くないか。
「大丈夫かおい…」
出来るとか大口叩いていちゃってるし。いや、相手は武人なら手加減くらいは
「絶対勝ってやる」
木刀を持った沖田の目付きが変わった。
ダメそうだ、相手はそう、小僧じゃないか。
「おー見物だな」だの「大丈夫かあのひょろいの」だの、外野に朱鷺貴と近藤は引っ込む。
「中々ですなぁ、」
「いや…」
あれはただ単に見かけによらず負けず嫌いでしぶといんだ。それだけの性分で生きてきたのだから質が悪い。
「あぁそうそうトキさん」
そう言ったかと思えば翡翠は着物から足を出して苦無を抜いて捨てる。両足計12本。
それから懐刀、長さ違いを3本、袖口から太い針のような、柄のついた武器を一つと、折り畳まれた棒のようなものを一つ。
その他帯、なんなら襟元など、よくわからない場所からよくわからない物を取り出して「お預かりを」と言い残す。
当たり前に外野は「ナニソレ」状態。ナニソレ、それは俺もこいつに言いたいわと朱鷺貴は思う。
「え、お前本気で」
「冗談で命捨てんやろうて」
若干声が低い。これはマジだ。何せ武器を命と言いやがったこいつ。
「ちょっ、」
その間に木刀を持ち沖田と対峙してしまったからには唖然でしかない。
「なるほどありゃぁ玄人だったんか」
と土方がにやけて「おもしれぇな坊さん」と振ってくるし、「いやはや全く」と近藤が和んでいるのだから正気の沙汰ではない。
「徳も何もあったもんじゃねぇじゃん」
「お宅らにぜってぇ言われたくねぇけど反論の余地がない」
しかし、まぁ。
構えが最早片手である。もうそれ俺の何を見て啖呵切りやがったんだよクソガキ従者。
「凄くナメてるねお弟子さん」
「こんなもん刺さればええんやろ刺されば」
「アホかー…」と朱鷺貴は脱力。
その他も「ははは無礼講」と、まさしくその通りで、
「もうやられて礼儀を学んだ方がいいわあいつ…」
同情の余地すらなかった。
「どうですかねぇ、意外とああいう方が行くかもしれませんよ朱鷺貴殿」
それに土方が「けっ、」と言う。
「ほなぁ、いきまっかぁ」
あぁあもうあかんやん、でも稽古だしと思えば漸く翡翠が木刀を握った。
あ、ちゃんと握って構えも意外とそれっぽい。
と思えば沖田は沖田で近藤とはまた違う、「突き」と分かる構え。
そうか、この道場そう言えば混沌だわ。なんでもありだわ。
沖田が翡翠に向かったのは見える。
構えが低いわりに上段で翡翠が止めた、瞬間に刀を投げるように後方へ飛ばしたのだから「はっ、」と一同が息を呑む、沖田が取り零した木刀が落ちる乾いた音がからんとなり、
「一本ん…、」
ドスの利いたような唸りと、沖田の鳩尾に入り込み鉄扇を刺す翡翠に場は騒然となった。
えらく捨て身で潔い。
「なっ、」
離れて翡翠が鉄扇を開く。
そして「土方さんの切れない鉄扇なんで」とさも涼しく言った。
「ははっ、はっはは!負けだな総司!」
近藤が豪快に笑い飛ばして場が少し、緩んだような気がした。
「え、えぇ!?」
「鳩尾痛くないですか総司さん」
「…痛いかも、」
「はい、よろしゅう?」
「ず、ズルくない!?」
「鳩尾痛くないですか総司さん」
「痛いけど!」
外野に勝敗を求めるように眺める翡翠に「確かに…」と土方が言う。
「…まぁ確かに負けは負けだよな。実際なら死んでるもんなそれ」
「いいえ?翡翠は無殺生坊主見習いやし、殺しは致しまへんえ?なにか?」
非常に性格の悪そうな物言いだ。
そして何より朱鷺貴に対しても誇らしげ、「なにか?」と言いたそうに見ているのだから「ははは…」苦笑しかない。
「わーかった、わーかった、うん偉いお前凄い天才」
凹む沖田を放っておき朱鷺貴のところに戻る翡翠に「つまりは体格差?」と朱鷺貴は訪ねる。
「勘ですね」と何事もなく言う翡翠は全体的に鼻に掛かっていた。
「性格悪いのは確かだよな」
「あんさんに言われたくないですねぇ」
「いや、あれ謝った方がいいよお前」
と朱鷺貴が背後を指すので振り向けば、沖田が凹んで最早膝を抱えてしまっていた。
「えっ、嘘ぅ」
「あいつ負けたことねぇんだよ」
と横槍を言う土方だが「まぁたまにはいいだろうけど」と素っ気ない。
「取り敢えず俺たちの負けだな。金はねぇから飯だな」
「同じ釜の飯、という具合で如何ですか朱鷺貴殿」
「あぁ確かに腹減るわこれ」
そうと決まれば「飯作ってくれ」と近藤が仲間たちに声を掛ける。
皆がさて広間へと動くなか「すまへん総司さん」と翡翠は沖田に声を掛けるが、「黙ってホントに」と恨まれてしまった。
「絶対いつか殺してやる」
くわばらくわばら。
しかし確かに、反省だった。
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