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「この辺にも激派、鎮派はまぁいるから身近なことだよ。
病弱な将軍への贈り物か、どちらかがどちらかへ送ったのかわかんないけどね」
なるほど。
「殺伐としてまんなぁ、世知辛い」
ちらっと根岸が翡翠を見るのは、先程のアレを根に持ってるんだろうか。
翡翠は大して気にしてないようで、相変わらず飄々としていた。
「へっくし、」
流石に朱鷺貴はやっぱりダルいと感じていた。本当に風邪かも。激派は大老殺しと言うくらいしかイマイチ頭に入ってない。
というか、若干世界が廻ってきたんですけど。
と言うところで根岸の家についた。
根岸はどうやら一人暮らしのようだった。珍しい。
「俺ので悪いけど」と根岸が出してくれた布団に有り難く朱鷺貴は寝転ぶ。
「さぁてまずは焼きネギね。すぐ出来るから」
と根岸が台所に立ち、翡翠は桶と手拭いを借りて看病に回った。
坊主は蒸気が出そうなくらい、いや、もう出てるんじゃないかという勢いだった。
まぁ、確かに天候というか、土地に慣れてないからな。そりゃ具合も悪くなるかと、翡翠は先日の赤城山の己を思い出した。
ゲロったわ。なんならしばらく気持ち悪かったわ。
「お薬ご用意しますわ。
根岸さん、お水頂いてもよろしい?」
「あいよー」
快く水入れを渡してくれたついでに、なにやら棒状の物も渡してくれた。
臭いけどこれはなんなの。凄くこんがりした匂い、けどなんか身体に良いと言われたら納得しそうなやつ。
翡翠がポカンとしていれば根岸は「焼きネギ」と素っ気なく言った。
「え、これは齧るんですか?」
「首に巻くといいよ」
「え゛っ」
なにを言ってるんだこの青年は。
「よく効くよ」と笑顔で言われてしまっては「あぁ…はぁ…」と引き下がり、朱鷺貴に見せるしかない。
根岸はそのまままた何かを料理し始めた。
「トキさん…」
不安そうな従者に「にゃんにゃ?」とふにゃふにゃとした返事。マジで具合が悪いようだ。それにこれを巻いて果たしてなんになるんだろう、自然の生薬かしらと、まずは水と薬を渡そうと傍らにネギを置けば「臭っ!」と言われてしまう。
「え、なにそれ」
覚醒した朱鷺貴は真っ青な顔で半身を起こして言う。ごもっともだが自分にもよくわからない。
「まずはお薬ですぅ〜」と、翡翠は薬箱から半夏《ハンゲ》や芍薬《シャクヤク》、桂皮《ケイヒ》、五味子《ゴミシ》を調合して朱鷺貴に渡した。
現在で言うところの“小青竜湯《ショウセイリュウトウ》” である。
「あぁ…おおきに」
と薬を飲んでは「うぇぇ」と明らかに不味そう。「辛抱やで。ほら飲み込んで!」と従者が指示。
結局水を何口か飲んでから気になる、翡翠の側に置かれた臭いのキツイ棒。というか布。
朱鷺貴が壮絶な表情でその蛇のような物体を見つめていれば、「首に巻くらしいで」と、思いもよらない翡翠の一言が返ってきた。
「…はぁ?」
「効くんやて」
「…なんで?」
「なんやろ、お香みたいなもんやろか」
「え、それもう巻かなくていいんじゃ…」
「というか食べられへんのやろか…」
だよね。
従者との感覚が一致したことに安堵や不本意やら。
しかし興味深そうに、しかし用心深く見やる翡翠の様が可笑しい。
恐る恐る手に取って「…毒味しますかこれ…」と布の先を剥いて珍妙な表情で言う翡翠に「いや、」
毒があったら死んじゃうよ?
と言う間も与えず齧った翡翠に口が開いてしまった。
何?何その微妙に子供みたいな好奇心。
なかなか熱かったり、繊維だったり、噛み切れなそうな翡翠の様子に、なんだか熱でふにゃふにゃになっていた股間が急に縮まったのが朱鷺貴にはわかる。
君って色々目に良くない。
更にちゃんと噛み切れてもしゃもしゃしてから嚥下した翡翠が口元を覆った優雅な姿で一言、「毒はないけど凄く不味い」に、
「お前ってほんまにおかしい」
と言わざるをえない。
「何で食うかなお前」
「え、いや…」
「毒だわお前がね!」
「なんや」
皮肉そうに睨んで坊主に言い捨てる、「意外と元気やん」と。
「元気じゃねぇよぅぅ…なんでも食べるのやめなさいよ」
「はいこれあげますわ」
寄越されても困る。
「何してんのあんたら」と根岸が何か、茶碗を持って現れ、「食ったの?」と翡翠に問う。
やっぱ食い物じゃなかったんだ。
二人とも思った。
「初めて見たわそれ食ったやつ。食い物だけどそれは食わないだろ…。首に巻いてって」
「すまん、それも正直よくわからんわ」
「え?普通なんだけどそっか、このネギはないのかそっちは。
はい坊さんおじや」
「さくっとすげぇ失礼」
見ればぶぶ漬けの汁飛ばしたみたいなやつが出てきた。さくっとというか相当だけど。こいつそんなに根に持ってるの。けど確かに翡翠は無礼だったな。
「はぁぁ、おおきにぃぃ」
と露骨に朱鷺貴は真っ青な笑顔だが根岸は凄く嬉しそうに「精力つくよ、ニラだからね!」と邪気がない。
「あんさん、そんなにさっきの根に持ってるん?」
直球に翡翠が聞くも「ん?確かに怖かったよ、死ぬかと思ったもん」とあっさり返されて行き場を亡くしてしまった。
この青年、凄く悪気なく意味わかんないわ。読めねー。
二人の見解はそれに至った。
もしや全体的に悪気はなかったりして、疑り深くも朱鷺貴は自棄になり“おじや”をかっこんだ。
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