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「誰だ坊主…!?」
この大道芸のような茶番に侍は混乱しているようだ。しかし、朱鷺貴の頭は冷えている。
血のついていない刀に朱鷺貴は安堵したと同時に確かに気まずさが増した。
「お前は長州間者か!」
「は?」
「あぁぁ、そりゃぁ…あの番頭ですよぅ、…三好さん」
まだ少し熱と苦しさがある息遣い、声で翡翠がそう言う。
なるほど、と朱鷺貴は状況を把握した。
そしたら笑えてきた、また。
「っはははは!あの野郎にタマぁ握られたなお前!」
「…まぁ、」
「はぁ〜…」
溜め息を吐いた朱鷺貴は後ろに手をついて「お前なぁ、」と翡翠に言う。
「ちょっとお痛が過ぎる」
それから朱鷺貴は這って襖を開け、「番頭を呼んできてくれそこの少年」と叫ぶように言うが「え!なんですか!」とこちらに駆けてくる音がする。
三好は咄嗟に布団へ潜る。
「いいからトキさん!」と怒鳴った翡翠は朱鷺貴を睨みあげた。勿論ほぼ全裸で。
「殺したなお前」
「は?」
「自分を、また」
静かな朱鷺貴の声に、翡翠の心は一気に何もかもが押し寄せ、混乱してきた。
「性分ですからねぇ、」
開き直った翡翠の声に。
ぴたっと全ての音が止んだようだった。
ぷちん、と。
静かなそこに、頭に血管が切れた音がして。
突然、朱鷺貴が翡翠に馬乗りになり頭を平手で畳に打ち付けたのには、潜った三好も隙間から覗く。
翡翠は睨みつつ歯噛みして朱鷺貴に唾を吐き掛けた。
それにまたじわりじわりと朱鷺貴の腹が立ち、翡翠の胸ぐらを掴みそれで唾を拭いただ一言、「殺すぞてめぇ」が出て行った。
殴りはしないらしい。
が、朱鷺貴の今までにないほどの低音で淡と言われたことに、少なからず翡翠は動揺した。
「…は?」
歯が鳴りそうで短く切るが、朱鷺貴も相当噛み締めて歯が鳴りそうなのが翡翠の目に映る。朱鷺貴は怒ったらしい、網膜すらいつもより涙ぐんでいる気がした。
「…てめぇがな、」
あぁ、そうだ。
「てめぇがあの侍にぶっ殺されたりぶっ殺したりしてたらどうしたもんかと肝を冷やした意味が一気に消え失せたわこの野郎」
「…ぇは…?」
「…もういい、」
ああ。そう。
呆れられたようだった。
ふと刺さった刀を見た朱鷺貴が「悪いけどそれ帰してくんねぇか侍」と吐き捨てる。
「あんた怪我してねぇか」
「…はぃ?」
「してねぇなら呪いか。まぁ俺も」
「うるさっ、」
しかし従者はじわりじわり、反抗したようだった。
「なんで、」
「は?」
「…あんたが黙ってりゃ、守る面なん、ねぇんよこっちは、」
「何言ってんのバカなの?」
「坊さんよりかはお綺麗やないですよ、ええ」
「何言ってんのバカなの?」
「ニ度言うか普通」
「言うねぇ。ニ度言ってもわかんないなら棺桶にまで詠んでやるよ」
「あぁそうして下さいな、有り難いわぁっ」
「やらねーよバーカ」
「はぁ?」
「はぁ……」
溜め息が出るもんだが。
「呆れたんやろ、なら」
「呆れたわ」
「そんならもう」
「黙ってくんねぇ?マジ。死んでも治んないなら黙ってくんねぇ?」
「なっ、」
いつ呼んできたのだろうか。
呼び出された吉田は外で傍観していたようだ。
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