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 五街道の交じる日本橋で、少し趣が変わった。
 日本橋はなるほど、城下町だけあり“伝馬”が盛んなようだった。

 町に活気もある。人の出入りも勿論だが件の“小伝馬町”の他に、大伝馬町、南伝馬町があった。

 街道の分かれ道でどこをどう分けているかは旅人二人にはわからないことだが、流通が良いということは直結して景気が良いということだ。

「おめぇさんどこ用だい?」

 とまた、町に着きすぐにいくらか声を掛けられる。
 確かに、重い薬箱を背負った男が坊主を連れていると言うのはどこでも珍妙だが、ここは最大市場である。

「薬屋と坊主なんざぁ、小伝馬かいな」

 やはり矢継ぎ早に話は進んでくれるものだ。
 こういうのは話に乗ってしまうのが早い。

「小伝馬町?」
「牢屋じゃないんかい」

 なるほど、監獄には確かに坊主も薬屋も必要なものではある。

「そうですねぇ、」

 だが、話題が切れるのも早い。
 伝馬が走ると言うのはつまり、それだけ秘密も行き交っている。一つの国に3も伝馬町が置かれるというのは、やはり京都とは勝手が違うようだ。

ツー、テン。

 最中に、近場の宿屋、くらいの場所であろうか、三味線の音がした。
 白昼の、こんな町で。


三千世界の 烏を殺し
主と朝寝がしてみたい


 さらには…その三味線から、都々逸のような歌が聞こえてくるのだから、「ははっ、」と翡翠には笑えるのだ。

 外へ出ていた酒屋の店主にふらっと、「この唄はどないな歌で?」と翡翠は訪ねてみる。

「さぁ…、ここいらでも聴いたことねぇ唄だな。昼間っからどうしたもんかねぇ、田舎もんが女でも呼んでんじゃねぇのか」
「このあたりの都々逸ではないのですねぇ…」

 自作だろうか。
 本当に酔狂なものだ。

 「どうしたもんかね」と酒屋の店主が苦笑する。

「随分と酔狂な方がいるようですね。まるで自分はここにいるとでも言いたげだ」

 三味線は一曲で止んでしまった。

「この調子やと商いは外れの方がええやろかねぇ…ホンマに牢屋か、道場かと言うたところで」
「それはそれで脱藩浪人のような待遇だな」

 翡翠は醤油屋に「おおきに」と告げ、一息を吐く。

 過ぎ行く伝馬、商人、町人達、三味線の音が何を持っているのかはそれぞれ誰も知らない。

 遠くなる話し声にそういや最近は長州の若ぇのはどうした?と聞こえる程度、なんだかわからねぇぜ、牢屋にでも入ったかなぁ、だなどと聞こえるのは大、小、南、五街道の違いともまた勝手が違う音。

 一見長閑なわりには近場の刑場もある始末。生活と死が混在する。つくづく不思議な町だと思えた。
 どうにも、忙しなくキナ臭い。

「京が華の都であるなら、ここは土のような場所なんやろかね」
「土か、なかなか似合わず風流なことを言うな」
「トキさん」

 翡翠は朱鷺貴に提案をしてみることにした。

「暫くはこの地に留まってもよろしいのではないやろか。ここは時世が、一番良く見える地だと思いますよ」
「そうだなぁ…」

 土がなければ華もない、しかしどちらも国の中では重要か、など、翡翠を茶化した朱鷺貴も似合わずに考える。そう自覚したのすら、なるほど江戸までやって来たからだ。

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