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「いがらひはん」
海鮮お好み焼きを口にし「あっづ、」と吐き出しそうになりながらサナトは言った。
「あーあーがっつくなよほら」とサナトにビールを与えたはいいが、熱さに刺激されたかなんだかはわからん、咳き込んだり鼻を啜ったりと珍しく忙しそうに食っていた。
一通り終われば涙目でまた「五十嵐さん」と呼ぶのに「なんだよ」と、俺も若干こいつに引いていた。
「……で、営業ってなんですか」
「そうだなぁ、出版社もだけど」
「枕ですか」
「違ぇよ。電話したりファックスしたりすんの。出版OKなら本屋に突撃したりせねばならんし。同時進行で個展アポも取らんとならん」
「ふーん、まだ一枚、ですよね?」
「早いに越したことはない。画家というものは追われればやるもんだ、だから君も体力をつけ」
「豚玉半分交換しませんか」
…若干思っていたがこいつ、思ったよりも飯を食う。結果なんなら吐くまで食う勢いだ、こいつを拾ってから。結果大して食えていない気もする。
一種、年末の大食い選手権みたいだよなぁ、とぼんやり思いながら「いーよもう一枚頼めよ」と手元のメニューを渡した。
「いや半分で良いんですが。一枚は飽きる」
「我が儘だなぁ、食えるだろ?」
「半分あげるんで」
「いーよ俺もなんか頼むし」
「じゃぁ豚玉以外にしませんか、もうあるし。ちょっとずつ食べたい」
「……なんか怒ってない?」
しかしサナトは俺に一切構わずチャイムを押し、「チーズと広島焼きと明太もちもんじゃ、スナック入りで」と勝手に注文した。The 王道の粉もん。仮にモデルと思えないほどの炭水化物。いや、却ってダイエット?
隙間に「生1つ」と頼む俺の目の前で遠慮なく海鮮と豚玉を半分交換してきたのでさらに「もうカルビ。カルビもくださいただの肉の」と追加した。
「…食べ放題の方が安かったですかね」
「お前が言うかそれ」
「お財布は五十嵐さんのなんで助言を」
「遅いよね言うの、何腹減りすぎてたの?」
「昼食べてないので」
あーそうだわ。そうか当て付けなんだねお前。
海鮮と豚玉を箸でやけに細かく時間を掛けて焦れったく切っては、お行儀良く口に運んで「おいひい」と言った。それはあんま行儀良くない。
「で、聞いてますかサナトくん」
「電話とファック」
「うんそう違う。それは君にやって欲し…」
何故だか急にサナトの目が座り、絵に描いたように寝そうになるので「あのさ!」と言えば一瞬だけビクッとする。優雅に紙を取って鼻水をかんだ。
大体なんだよ電話とファック。そんなサービス誰も頼んでねぇよ。
「食いながら寝るな話を聞けよ」
「んー……昼寝してないんで…」
「いや急に?お前普通に腹立つねぇ、なんなのそのゆるキャラ」
「いや…まぁ………そんなもんなんで、疲れちゃった」
「体力つけにきてんだろっ!」
「…ここ熱くて眠い…」
お前が食いたいって言ったんだよ、俺は焼き肉が食いたかった。
「熱い……」と言いながらシャツを仰ぐので仕方なく飲みかけビールを渡すが「ノリ…」と、確かにノリくらい飲み口につくけど、また勝手に「水ひとつ」と通り掛かった店員に頼む。
わかるよ、俺わりと最低だけどそんなに迫害することないじゃんか。
サナトはマイペースに溜め息を吐いた。
「…五十嵐さんは、」
「何」
「あれ、どうなんですか」
「何が」
「……出来、というか……」
「君本気で寝ないでね鉄板熱いからね」
「…寝る前に。僕の、何を…知った気になったんだろうかと…」
「なんも?俺が知ったんじゃあの絵に意味ないじゃん」
「……はぁ、」
「好奇心以外に何もなし」
俺が知りたいくらいだわ。
ふと、起きたのか起きてないのか、ぱっと目を開けたような表情で「そうですか」と言っては俯いた。
本気で寝るとか多分あり得ないから平気だよねと思った間に、「いや、ぶっちゃけ薬で眠いんです」と呟いた。
「は?」
「あるある」
「え、何本気なの?」
「食べますけど、水飲んで」
「ホントに大食い選手権みたいだな、腹一杯で具合悪いとかやめ」
くしゃみまでする。あぁあああなんでこいつこんなに話通じないの宇宙人なの、マジで。
取り敢えず怒ってるのだけはわかったけども。
お互い様かとそれから無言で頼まれたものを片っ端から片付ける。
サナトはうとうとしながらも頼んだものが来れば生き返ったようにもしゃもしゃ消費し始めた。大丈夫かよこいつ、と引く思い。さながら野獣セックスしてたやつみたいな勢い。恐ろしい。
最早それ、明らかに自棄じゃないの?けど会話はしなかった。
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