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笑っていたら、笑いが止まらなくなってきた。心底冷えるように楽しい。
「え、そんな笑う?なに?お薬利きすぎちゃってんの?」
「それ…あ、ある…ふっ、」
「納豆巻があぶない」
そう言って照井は勝手に人の手から納豆巻を食ってしまった。
「はぁ、ふ、ふざけんなよっひひ」
「ホントだ感情が曖昧だ。普通の躁鬱なら突然いま大激怒してテーブル蹴っ飛ばすよね」
「っふふ…はっはは、」
もう我慢できなくて寝転んで膝枕してもらった。だが膝も揺れるわけで「痛い、ごりごりする」
「ふ…普通のそーうつってなにぃ、」
「あーうんはいはいごめんね、俺変なスイッチ入れたね。音楽流してくるから」
頭を撫でてから照井の膝枕はなくなってしまった。
テレビの横にあるCDコンポを弄って、「あ、これ落ち着くやつ」と照井が流した曲は明るい曲だった。
あれ、この曲多分聴いたことあるな、CMかなんかで。変わった声の女の人。
ピタッと俺の笑いが止まれば、「あ、聴いたことある?これ」と照井は言う。
「90年の…うーん、ノストラダムスより前だな確か。…中学ぐらいかなぁ流行ったの、ちょっと風呂見てくるから聴いてなよ」
照井はそう言ってまた風呂場に向かった。
どこで聴いたんだろう、真っ白い診察室に少し若い照井と、幼い俺が向かい合って、俺は泣いていた気がするんだけどなんでだろう、ここで聴いた?いや、それはないけどあなたと二人でこのまま消えてしま…う?いまあなたの体に溶けてひとつに重なる。
絶対聴いたことある歌だよな。ぼんやり、ふわっと確実にこの声は入り込む。
左腕を見て陽、と声を掛けてみるけどハルは寝ているような気がする。観測記は書き忘れてしまったな、次に起きたとき、次に俺は起きるのだろうか。あの観測記を見てハルは、何を思うんだろう。
ハルが出てくる頻度が低い、わりに突然だった。今日はやっぱり観測記に何かを残しておこう。
「悠?」
ぼんやりし始めて掛かった照井の声にまだ俺は意識がある、はっきりしてしまった。
覗いた照井はニコッと笑い、「先入っていいよ、落ち着いたみたいだし」と言った。
左腕が目に入る。入れる、の方が意識的には正しいのかもしれない、風呂に入ろう。
陽。
俺はこうやってお前が俺にメッセージを送るの、本当に痛くて堪らないんだよ。シーロスタット観測を見て欲しい。まだ、照準が合っていないけど、二枚の平面境はもう少しで向かい合うだろう?
俺はハルにずっと生きていて欲しい。眠る間ですら、いい夢を見て欲しい。俺はお前のせいで寝れないんだから。
あなたとふたりで、とメロディーがなんとなくずっとぐるぐる風呂の中でも巡っていた。最高に楽しいだろう音楽が少し切ないもんだな、続きはもう忘れてしまった、なんだっけと考えていたら、「悠、長いけど逆上せない?」と声が掛かる。
そんな自覚はない。ずっと考えていたのだろうか。
現実に戻れば逆上せそうで、若干ふらふら、貧血に近いような、ぐちゃぐちゃ混ざった意識と視界で風呂から出て、「暫く座ってな、はいお水」と洗面所で渡される。
しゃがんでいれば照井はさっさと風呂に入っていくが、ぼんやり、今度は男の人の歌声が聞こえる。多分、この声も聴いたことあるんだよなぁと、水を飲んでゆっくり立ち上がり再び歯を磨いた。
アゲハ蝶かぁ。ふわっとしているな。歯を磨いてからまた暫く踞っていたら「あーあ、」と言った照井の事は、覚えていた、けど。
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