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『ここに来ててもいー?せんせい』

 にっこりと笑った、茶色いチェックのワンピースを着た髪の長い少女はあの日、そう言った。
 隣にいた、白い丸首のふりふりしたブラウスの子供は紐で吊ってある黒いズボン。ブラウスだったから、始めは男の子だと気付かなかった。多分、親は服を間違えてしまったんだ。

「そう、です…」
「昨日、疲れて寝ちゃった?」

 悠は数日、あまり起きなかった。多分飲み合わせが悪かったのだ。

「……体育は見学しました。……その、お腹が痛くて」
「…ごめんね、変なことを聞くけれど月経かな?」
「え?」
「いや、お腹が痛いって、どっちなんだろうって。月経であれば眠くなる、心が不安定になる人もいるから」
「……そんなに単純じゃない、私は生理痛もそんなになくて、」
「ごめんね。もしもそうなら鎮痛剤とか…考えたけど」

 森下さんは俯いてしまった。
 恥ずかしいんだろうが…これは大切な材料なんだけどな…。

「……取り敢えず今日は、お腹は大丈夫、なのかな?」

 こくり、と頷く。ロキソを処方。痛くないのなら気休め程度…3日分、一日一回にしておこう。お腹の痛さが腸なら微妙だけど、聞き出せたのがこれなら仕方ないな、まぁまぁ長年飲むわけでもないし。

「…寝よう、として寝なくてもいいかな。より寝れなくなるし。ただ、不安で寝れないのは学校なのかな?それも考えていれば頭って、使うと眠くは、なるよねぇ。
 薬を出すことも出来る、睡眠導入剤とか。睡眠導入剤には心の安定する作用もあるんだけど、副作用と効果って大体同じものだったりするから、もしかすると日によってもっと不安になってしまうことがあるかもしれないんだよ」
「…でも、」
「頭も痛くなるかもしれないし、ボーッとしちゃってね。例えば車を運転する人には眠ってしまう、ボーッとしてしまうから処方をしないか、車の運転をやめてもらったりもする。
 授業どころじゃなくなってしまうかもしれない」
「…そうなんですか」
「うん、あれらは強制的に頭の…運動をね、シャットダウンするんだよ。それは学生さんには薦められないなあ。まだなんとか寝れる、寝れないのが「生活の不安」であるならそれを解消していこう、と思う、先生はね。
 だからといってそれが負荷になるならあげる。どうする森下さん。君が決めていいよ。ただ、安心するのと同じくらい不安になるのは忘れないで。お母さんにも伝えて」

 お母さんの顔が思い出せないな。
 いや、そんなのは当たり前だ。認識していないのだから。

 付き添っていた母親が来なくなる、これはリストカットが進んでしまうかもしれないな、下手すれば。カルテにメモしておこう。俺は次にはこの子を覚えていないだろうから。

「もうちょっと……」
「頑張ってみる?」
「話を聞いてください」

 …そうなったか。

「いいよ」

 子供の衣服が以前とあまり変わらないことに気付いた。
 始めに衣服を見て、お上品な印象だったからだろう。それが続いたから覚えていた。
 いや、違う。可愛いと認識したからだ。

 夏なのに長袖。絵に描いたようなネグレクトだと気付いた。

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