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「っあ…、ふぁ、っ」

 息にも喘ぎにもならない、空気を割いてしまいそうな物だった。

 ハンチング帽の友人が、「丁度狙ってんなら、中部屋入ったみたいだし、行ってくれば」と俺に提案をくれて。
 暫くはなんとなく気が引けていたのだが、急に友人はペアを見つけて去ってしまい、やり場もなくなって「中部屋」なる所を覗いたのだけど。

 ここはそう、
 数組の男同士がセックスしていた。
 そう、ゲイバーを兼ねたハッテン場だった。

 呻き、濁った息遣い、ドロッとした欲情ばかりしかない。それで俺は場所を掴んだ。

 スラムのようだ、どうしてもそう思ってしまう自分がいて。

 スキンヘッドとあの女顔は4組あるベットの、一番右奥でセックスしていた。
 開けられたシャツだけになりスキンヘッドに細い腰を掴まれた女顔は騎乗位体勢で一度仰け反る。
 その女顔の息だけ、何故か耳に入ってきたような気がしてならなかった。

 と言うか、なんだかその二人は異常に見えた。

 異常も何もない場所だが、女顔はそれから耐えるようにスキンヘッドの肩へ額を当ていやいやと首を振るのだが、にやにやしたスキンヘッドが何か、派手な色のボトルを開けてがつがつ腰を動かしながら、壁の方へ二人で向いてしまった。

 「アブノーマル」という言葉が浮かんでくる。あれは本当に同意なのだろうか、ぐったり肩を掴みながら突かれている女顔に、俺は完全に魅入ってしまい、シャツから透ける肩甲骨、その背中に勃起した。

 だがスキンヘッドの笑いがどうにも、気が狂っているようにしか見えない。

「おいどうだよ、なぁ、やべぇだろ、」
「うっ、あっ…はぁ、やっ…、」

 流石にまわりも注目をし始めたようで、俺は唖然とするしかない、入り口で。
 それが普通かどうかはわからないが、「あぁあっ、」とまた仰け反った女顔の表情は、苦しそうだが快楽はあったようだ、多分苦しいほどに。

 背を支えるように抱いたスキンヘッドと目が合った瞬間、薄笑いのそいつがふいに指をくいくいっとしたのに、なんだこいつはと怒りのような物か、欲情なのか、その二つが頭で激しく混じりあって感性が犯された気がした。

 夢のような、幻のような。
 エレクトリックな物が、溶かし合っている。だけどフレッシュじゃない、デューセンバーグみたいだ。嫌いなギター、そうだけどエレキ。

 性器を抜いて、草臥れてしまった女顔を寝かせたスキンヘッドはズボンを履き直していた。
 弱々しく腕を掴んだ女顔に、「いい子にしてろよぉ、」と、呂律が回っていない。

 離れた腕、龍だろうか、なんの刺青かわからないけど。

 ヤバイかもしれない、これはもしかすると。

「はっ、それまでは誰か相手してやれよ、可哀想だぞこいつ、」

 吐き捨てるように言ったスキンヘッドが女顔を置いていく。

 クソッタレのような悪人面で笑ったそいつが入り口まで歩いてきて、はっと我に返った。
 男はすれ違い様に俺のジーパンの上から性器を撫で、「ひゃははっ、変態」と煽る。

 腕を叩き落とした瞬間に「よかったぞあのオンナ」と吐き捨てて出ていった。

 またはっとしてベットを見れば、「おいやべぇよ」とボトルを指差すやつ、「俺も一回いいかな」とにやけるやつ。

 ダメだ、こんなのは。

 それだけで進んでいた。
 突然現れたような俺にまわりが騒然となるのはもう、切り離す。
 「可愛いな、」「あんたもどう?」が煩わしいが、「ちょっと待てよ」と俺はその場を制していた。

 体をくねらせるように俺を見た女顔は虚ろな目をして息をしていた。
 虚ろににやっと笑い、ふと、枕元に捨てられたボトルに手を伸ばしたから「ダメだよ、」そう言ってその細い手首を掴み、腹が立って振り払ってしまった。

 そいつはぼんやりの中に驚きの表情を見せたが、まずまわりに、

「悪いけどその人俺のツレだから」

と言っておいて「行くよ、」果たして何処に行くという、脱ぎ捨てられたパンツも下着も手にして渡した。

 それに漸く意識を捕まえたらしい女顔は、綺麗な面を歪めて「はぁ?」と言葉を朧に投げてくるのだった。

「何、」
「…別に」
「誰」
「…真麻。えっと、真実って言う字と大麻って言う字で。あんたは?」
「…なんで」

 答えられなかった。
 
 しかしふと、そいつはふにゃっと笑いベットに座った俺に抱きつき「楓」と耳元で答え、俺を後ろに倒そうとしたのだが、俺は片手に力を入れそれを阻止する。

 息は酒臭いし、何より熱く感じた。
 ふいに俺の股間を触り「ははっ、」と笑ったそいつを、可愛らしいなと思ってしまった。

「あんた、初めてなんっね、」
「そうだけど」
「よく、わかんないんれしょ、」
「そうだね」

 舌なんてまわってねぇじゃねえかこいつも。

 露出されたガン勃ちのそいつの性器をぎゅっと握ってやった。わりと痛いんじゃねえかと思ったが「あっ、何っ、」とドロ甘で正直、バカなんじゃねぇかと思った。

「あぁ、よくわかんねぇから二人で寝たいんだけど」
「こしつ?」
「あんの?」
「うん、奥」
「あっそ、じゃぁ穿いてまず。そのヤバそうなヤツは怖ぇから置いてく」
「は?」
「俺大学生なんだわ。まだ未来あるんだよね」
「…こんなん、俺が使えば」
「大丈夫だよあんたもうヤバそうだから。俺下手でも大丈夫でしょ、早くして」

 っつ、と思いっきり歪み顔で舌打ちされた。それすら噛みそうだったのも腹立たしかった。

 もたもたしている楓を眺めるが、よく見りゃわりと淡々とした表情だった。

 なんかわかんねぇけど、初だし。
 こいつ実は、擦れちまってるだけなんじゃねぇかな。

 穿き終わり「これでい?」と首を傾げた顔が、さっきまでとは打って変わり、物凄くセンチメンタルな色気を感じた。

「いいよ。どこにあるのか教えて」

 素直に、朧な歩みで、それから楓は個室へ案内してくれた。

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