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「…落ち着いてきた?」
腕の中の楓に聞く。首筋に少し汗が滲んでいるように見えた。
微かに頷く楓に「薬飲めそう?」と自分の喉を落とすように落ち着いて聞いてみる。
うんうんと頷く楓が条件反射のようにどこかへ手を伸ばすのを取り、「大丈夫大丈夫」を繰り返すしかない。
切なく見つめてはぁ、はぁ、と息をする楓のぼやけた視線に負けそうになる。肺あたりに、水が溜まっていくように、俺だって苦しいと気付く前に、瓶から薬を一つ出して水と共に口に含んで、楓の口にゆっくり流し込んでやる。
この瞬間の俺はいつも、清か暗か曖昧なものだ、そうはっきり思う。
口を離して見つめた楓は、自意識を掴んだらしい。はっきり俺を見て、息を整えようとしているようだった。
「…苦しかったね。どう?」
頷く楓に「よしよし、」と、頭に抱きついたが「ぐるじぃ、」と言われ、安心がじわりじわり、頭に広がっていく。
「そうか、狭かったね。はい、これくらい」
一番ベストかなと、腕枕をしてやることにした。
急に顔をしかめて「ごめんねぇ…、」と謝った楓が泣いた。
「大丈夫だよ、よしよし、よかった」と、涙を拭いて手を握る。湿って、それが体温をぼやかしている気がした。
「…寝れたら寝ようね、楓」
「うん、ぅ…」
「どーしたの、悲しくなっちゃったの?大丈夫だよ、泣かないで。今は寝ることを考えよう」
「…しゅごい」
「ん?」
「…真麻の方が、…冷静、」
「当たり前だろ、俺がパニクったら大変だよ。でも、楓の方が苦しいねぇ」
「…大人みたい、まぁさ」
「大人ですよぉ?楓ちゃんより年下だけどさ」
「ぅふっ、」
「はい泣かない泣かない。疲れたら寝ようね。
急に苦しくなっちゃったの?」
「うん…」
「もしかして起こした?」
少し夢を、思い出す。
「うぅん」
「…起こせばよかったのに。どれくらい?苦しい時は起こしていーから、マジで」
「うん、ごめん…」
「まぁ、よかったよ、楓…」
どっと疲れが、逃げていく気がした。
一回り小さな楓の手から、手首を掴む。1,2,3,4早いけど、まぁなんとなく大丈夫そう。
自然と楓の脈を計っていた自分に気付いた。
あそこから、何年経ったか。
25、もうすぐ26。そうか、4年か。そりゃぁ慣れるもんだ。
始めは互いにわかっていないし、そもそも行きずりで心も融解していなかった。けれどいまでは楓の入院にすら俺は慣れた。
そうか、慣れたんだ。緩やかに静かだったあの川辺は寒かったと、楓の脈の暖かさを感じる。
落ち着いたようで楓は、微睡んでいる。
その頭を撫で「おやすみ」と言うのは、最初より痛みが麻痺していると気が付いた。撫でた俺の手を首筋に持っていき、少し緩んだ楓の顔に、始めの頃はこんな後、
「俺は何もしてやれなくてごめんなぁ」
と、そう、泣きそうで言いたかった、胸を刺す痛みが俺にはあったんだよな。
楓、何もしてやれなくてごめんなぁ。じんわり、じんわり、痺れを解すように、肺が痛い。
この言葉が心臓から全身に流れていま、俺は生きているのだろうか。
溜め息が自然と出る、天井がはっきり見えていて。その景色か夜の寒さかはわからない、何が頭を圧迫するのか心臓を掴んでくるのか廻った物が肺を刺すのか。
久々に歯が鳴りそう、涙が出そうだと力を入れて閉じる。
たまに、そう。そんな夜がある。
寒いのかもしれないと、少し剥がれた布団を掛けようと思考を遮断した。楓が風邪を引かないように。寒いのはお互い嫌いだから。
布団を掛けて、どうしようもなく、行き場もなくした気がしたが、苦しいらしいから、楓の腰あたりに手を置いた。
入れ墨の腕が腰かケツかわからない微妙な位置に伸び、引き寄せられていた楓の後ろ姿を思い出す。
目を閉じよう、だけど夢は、見たくない。あのスキンヘッドを殺してやりたくなるのは、お門違いだとわかるからやり場がない。
息を吸って吐こう。切なさと腹立たしさが出ていくように。あのタコ野郎、今頃牢屋に入っていたら幸いだ。歯が鳴り唸りそうだった。
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