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『どうせマザコンだろ』『だから似てるんじゃねぇの?』『女みたいだな』

 別にマザコンでも母親に似ててもよかったんだけど、何故だかバカにされたという事実に母親の顔が浮かんだのだ。だからふと悲しくなった。あの頃の自分が寂しかったのかも、わからない。

「結構バカにされてさ。女みたいだとか、色々」
「…うん…?まぁ美人だよね、コンプレックスでも俺はまぁ、好きだよ」
「うんありがとう。でもまぁなんだか明確には何が嫌だって訳じゃないのに嫌悪は、あって」
「うん」

 背中を撫でられた。優しく、心地よく。

「…泣いてたときに、先生は優しかった。授業中って時間外なんだけど、側にいてくれて…」
「…うん、」
「大丈夫だよ、可愛いよって、言ってくれて」
「…うん、はい」
「…ごめんね、マーサ」
「いや、ここまできたら一気に聞くわ、まぁ謝らないで、」

 吐き捨てはしないようにマーサは耐えているようだった。

「…いつも、なんだろうな、何時くらいにみんな親が迎えに来るのか…でもまぁ、明るいうちに。ウチは暗くなって…なんだか暫くいたような気がするけど、いつも一人で残ってたんだよね、俺は」
「…その先生と?」
「うん、大体は。男の先生って珍しいってなんかの時に聞いた、大体は主婦層だとかがやるもんらしいんだけど、だからまぁ、きっとあの先生は独り身だったんじゃないかな」

 少しだけ、抱く腕の力が強まった気がした。
 機械的な「それで?」という低い声に、次になんて言おうかだなんて、少し萎縮もする気がする。

「うん…、その…」

 思い出す。

「…怖いことでも」
「いや、怖いとは、思ってなくて…というか、まぁ、小さい頃って、よくわからないし」
「…何かされたの」
「…というわけでもないけど、変だった気がする、今なら…。
 みんないなくなったあと、膝に座って待ってること、多かったのかな?
 先生とたくさん、話はしたけど、いま思い出すとなんだろ、こう…足、とかさ」
「…楓は男の子だし、そいつも男だもんなぁ…」

 考えているようだった。

「まぁ、あんまりねぇ…」
「うん、で?」
「うん…、まぁ、多分楽しい話をたくさんしたと思うんだけど、あ、トイレについてこられるのは恥ずかしかったな」
「完璧にそこから変態だよねそいつ」
「んー…まぁ、そうかも。小児性愛だとは思う、今なら」
「それが怖かったの?」
「…いや。
 いつからかはわからないけど、母親がふと、その先生と仲良いのね、いつも膝の上だけど…って言いにくそうに言われたんだけど、母親に秘密にしていることがあった」
「はい、一回俺のメンタルタイム〜、」

 マーサはそう言うと俺の顎をあげ、噛み付くようにキスをし、犯すようなのだけど、後頭部ははっきりぎこちなく、慈悲深い手付きで撫でてくれた。

 酩酊してしまいそうなときに口が離れ、「…で?」と聞いてくる顔は、何故だか少しぼやけて見えた気がした。

「うん、でね、」
「…うん、楓、大丈夫か」
「大丈夫だよ、別に…」

 けど言葉に詰まり息が止まった。

 初めてこんなことを話す、そう思えば海馬が溺れそうになっていき、なぜ泣く手前なんだろうとぼやけていくが、息を吐き直して、目は見れなくて。

「……その、ね。
 あ、脱いではいないよ?
 あのぅ…、まぁ大人になると、「素股?」的な…まぁ大人になるとアレがね、勃起したちんこだってわかるわけですけども…」
「おぉう、急に来たな犯罪」
「いやごめんいや犯罪ではない、俺のラッシュよりかマシ」
「あ忘れかけてたやつ!」
「いやもうなんかぁ、ごめんなさい」
「あー、ごめん待って、泣かないで、そういうんじゃなくて、」

 一気に言っちゃえ。相手は油断した。

「先生も出してないけど「足閉じて」って足?股?に挟んでゆらゆら的なぁ、はぁはぁはぁはぁ言ってんのよくわかんないけどなんか「あ、これなんかおかしくない?」って流石に思ったんだけど、いやいつのタイミングで俺も聞いたかわかんないよ?足舐められたときかもしんないけど、「お母さんに言っちゃダメ」って言われて。「なんで?」「もう会えなくなっちゃうから」って、で、」
「うぉ、はい、」
「ある日先生出しちゃって」
「出てるやん、それ出てるやん」
「ズボンについてしまい、」
「ほ、」
「焦って先生、俺の足とかズボンとか拭いてましたけど母上は臭いを嗅ぎまして洗濯前に「楓、ナニコレ」って」
「うわっ、」

 言ってみちゃえば、
 最悪だこれ。

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