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 あぁ、ゼリーとか必要かもしれない、何ゼリーが必要か。
 鍋焼うどん、これは夕飯にいいかもしれないがかき揚げかキツネか、どっちにしよう。
 あぁ、スポーツドリンクも必要だ。
 冷えピタって種類により差はないよな?
 風邪薬、種類がありすぎて皆目見当が付かない。
 氷枕まで種類があるの?

 雨川は近くのドラッグストアーでこれらの迷いによりぐるぐるしてしまった。結果ゼリーは桃とミカンとミックス、鍋焼うどんはどちらも、スポーツドリンクは2リットルと冷えピタは子供用二つに風邪薬は鼻炎と総合をそれぞれ一番高いのを買い、氷枕は柔らかそうなのを買った。

 当然5分は過ぎ、40分程で帰宅する。

「マフユちゃん」

 とドアが開いてふらふらと起き上がったソラに、悪いことをしたと感じた。

「ソラごめん、遅くなっちゃった…」

 無言でむぎゅっと抱きついてきたソラは熱かった。寂しかっただろうかと雨川は優しい気持ちになり、「ごめんね」とソラを抱き締め返す。

「ちゅめたくてきもちい、マフユにゃ」
「うん、そうだね」

 埋まってしまった顔に正直なんと言ったか聞き取れないけれど、安心して欲しいとソラの髪を撫でる。細くて柔らかい金髪。余程熱かったのかパジャマのボタンは3個まで開いていた。

「あぁ、ダメだよソラ」

 としゃがんでボタンを閉めてやる。スポーツブラがチラ見えすることに気まずさを覚えた。

「女の子なんだし、風邪も引いてるんだから」

 自分の言葉に酷く違和感を感じた。
 いや、どうして違和感を感じるんだろうと思うのも居たたまれない。本当に普通の女の子。

「あつかった」

 と言う頬は上気して目は潤んでいる。
 思い出した雨川は袋から冷えピタと氷枕を出して見せ、「冷たいの買ってきたよ」と自然と微笑んだ。

 「ん?」と疑問なソラはどんな反応をしてくれるだろうかと思いながら、箱を開け封を切り一枚取り出してソラの額を手で露にする。
 透明なフィルムを剥がして額に貼れば「ひゃっ!」とソラが驚いてしまい、少し斜めにズレてしまった。

「ナニナニナニ!?」
「冷たいでしょ」
「うん、ナニコレ!」

 剥がそうとするソラに「剥がしちゃダメ」と忠告する。

「柔らかくて冷たい!ヤダ!」
「我慢我慢。少ししたら大丈夫だから」

 いや、大丈夫なのか?自分は使ったことがなかったが、冷えすぎたり、そもそも頭でよかったのかと考えた。いや、38°で頭がヤバイとなればいいのだろうか、取り敢えず、潜在意識のような認識でそうしたけれど。

 少しソラは「むむ〜」と顔をしかめているが、さぁいまのうちだと思い、「お薬も飲んで」と、買ってきた風邪薬、鼻炎を取り出す。

「今度はナニ!?」
「美味しくないけどこれでおいしい」

 正直よくわからないけど、とスポーツドリンクを見せる。
 少し濁った飲み物を不思議そうに眺めるソラに、騙してごめんと思いつつ、雨川は薬と一緒に渡した。

 ソラは少し渋りながらも薬を1錠放り込み、こくこくと喉を鳴らせてスポーツドリンクと飲んだ。カプセル剤だったお陰かスポーツドリンクのお陰かはわからないが、「おいしい?」と疑問そうだった。

「うん、じゃぁ寝てようね」
「マフユちゃん、お仕事は?」

 今更のようにソラは思い出したようだった。
 ソラの頭を撫で、「おやすみだよ」と答えると、「じゃぁ一緒に寝る?」と聞いてくる。どこか不安そうなのだから、頷いてやるしかない。

「ソラにずっと着いてるよ。まずは安心してお休み」
「はぁい」
「夜には多分、南沢さんが来るから」
「ナツエちゃん?」
「そう」
「わかったー」

 南沢の名前だけでどうやらこういう反応らしい。
 ソラは非常にあっさりと一人でベットに入っては、来てと手招きをする。

 雨川も布団に入れば「ぎゅっとして」と言うのだから、ぎこちなく手を伸ばす。

「…熱くない?」
「これがイイの」
「そう…」
「マフユちゃんはなんだかイイ匂いがするの」
「…そう」

 熱いな。自分も少し逆上せそうだ。
 しかし少しだけ辛抱していればソラはすぐに寝息を立てて寝てしまった。

 汗の臭いに混ざり、子供の匂いと、風邪の匂いがする。それがやけに癖になりそうで、また気付けば体を離しつつもソラの髪の臭いを嗅いでしまう。

 良い匂いか。

 ぼんやりソラを眺めても、ソラはとても綺麗な「女性」だし、自分にとって可愛らしい存在だと思う。

 異性に対して羨ましいと感じるのだけど、ソラは正確には異性ではない。それがいま不思議でならない。

 雨川は自然とソラの手を握っていた。そして自然と眠くなっていく。どうせ休みなのだしいいや、と、雨川も目を閉じることにする。

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