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「おっ、おっ、」とはしゃぐソラとそれを興味深そうに後ろから眺める雨川。そして見つめ合って、ぎこちなくソラに微笑む雨川が見える。
そしてバケツを雨川が持ち、レジャーシートに二人でやってくる。色々な邪を捨てて南沢は「釣れたみたいね」と声を掛ける。
「さて、帰ろうか」
と口を吐いたが果たしてどこへかと南沢は考え、
「俺の家においで」
とつい言ってしまっては雨川の眉を潜め唖然とする痛烈に嫌そうな表情と、「行くー!」と無邪気なソラの対比に南沢は苦笑した。
君たち、俺の家を何だと思ってるの。
「…ソラ、ベットでぴょんぴょんはダメだよ。雨川くん、露骨すぎやしないかい、それ」
「えー、だってあれスゴい」
「あんたん家なんてなんなんですか」
俺はこれをどうすべきだ。
最早いつもの技術で「はいはい行くよ」とふたりをスルーして南沢は促すことにした。いずれにせよ二人の足である。最早それだけだと南沢は一人勝手に割り切る。
嫌そうにしながらも助手席に乗る雨川と、後部座席にバケツを置いて眺めて、暫くして寝息を立てるソラに、しかしながら南沢は少し満足するのだった。
さて、どうしようかなこの残された不機嫌をと横をチラチラ眺めれば、雨川も雨川で後部座席を覗いている。
ふいに南沢が赤信号で雨川の頭を撫でたことにより、より雨川の不機嫌は増したらしい。「やめてください」とその手を払われ信号は青になった。
「雨川くん」
「不機嫌なので声を掛けないで頂けますか」
「わかる。君って凄くわかりやすい」
「は?」
「でもそんなに嫌がられちゃうともっとやっちゃうかも」
心底から「気持ち悪っ」と雨川は言葉を発した。この男やはりゴキブリだ。絶対家も汚いだろうと最早、着く前から落ち着かない。
「てか、何故?」
「え、俺ってそーゆーの密かに好き」
「違ぇよ性癖じゃねぇよ、何故貴方の家か聞きたい」
「口悪いよねぇ意外と。
え、エビ達を家に連れ帰る為だよ雨川くん。けしてやましくないよ」
「はぁ?」
「そんな、俺をなんだと思ってんの」
ゴキブリだよ。
とは流石に雨川は言わなかった。こんなやつでも、研究分野は違くとも、仮にこいつは立場が上だ。精々「社会のゴミ」に留めておこう。
「酷ぇ。こう見えてねぇ、雨川くん」
「いやヒト科代表で延べましたすみません」
「可愛くねぇやつ」
「結構です。てか俺帰りたいです」
「綺麗だよ家は」
「どうして?」
ゴキブリなのに。
「どうしてぇ?」と間抜けに聞き返してくる南沢の目をまじまじと見た。ほら見ろ、俺はいま目で語っているぞ南沢准教授。しかし南沢は案外、というか普通にマイペースな野郎である。
「やだなぁ、そんなに見ないでくれよ」
と照れていやがる。何故だこの男。何か、タガか何かが外れていやしないかと半ば不安になってきた雨川は思わず目をそらすも、
「あら照れちゃったの雨川くん」
うぜぇ。
私生活マジでうぜぇ。変態に拍車を掛けている。毎度ながら雨川は南沢の宇宙人ぶりに辟易とした。
またそれが南沢は堪らない。我ながら最近欲求不満かもしれないと少し己を振り返る。
そんな空気のままふと自宅付近まで来たときだった。
急に雨川が「あれっ」と何かに驚き、
「痛い…」
腹を擦り始めた。
え、嘘。
そんなに俺の家嫌なの?半ば南沢がショックを受ければそれどころじゃなく「痛い、南沢さん」と雨川が訴えた。
「え、なに、なんでっ」
「…ちょっとコンビニ寄ってくれませんかマジで」
「俺ん家すぐそ」
「いいからマジ」
顔色が悪い。急に。
仕方ない。一度言いつけ通りコンビニに寄ろう。
しかし着いても雨川は立ち上がらない。
「何か買ってきましょうか」と南沢が雨川に訪ねれば、「いい…」と、薄顔を歪め苦しそう。
しばらくしてから雨川はふぅ、と息を吐き、なんとなく最近腰痛が酷いせいなのか、腰を庇うようにしてワゴン車を出ていく。
「…まさかね」
それは雨川も思っていたのだが。
即トイレに入り、汚さに一度吐瀉して開き直り、恐る恐る座ってズボンと、下着(女性用)を脱いで驚愕した。
来た、初潮?
痔?
いやなにこれと、慌ててまずはトイレから出てペットボトルの水を手にし、ついでにぼさっと生理用品を眺めて、詰め込むタイプと敷くタイプを買い再びトイレに入り「マジか」と一言。
俺、マジか。
ショックだった。
そして詰め込むタイプ、使い方とかアバウトに書かれすぎていてわからない。なんとなく突っ込むも「ひぇっ…」わからん、これ、押し出すの?気持ち悪い、しかしこれならバレない。我慢した。
終わって手を念入りに洗うも気分を害し、手持ちのウェットティッシュ3枚を消費し、何事もなさを装って買った袋を持ったまま雨川は車内に戻ったが。
「雨川…くん、マジ?」
南沢が驚愕の表情で袋を指差した。
「は?」
雨川は知らなかったのだ。
生理用品は女性配慮に、見えないように紙袋に包まれるが、
却って男性から見ればそれは解りやすいということを。
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