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 早速、皆に一度荷物の段ボールを任せ、潤と俺は麻薬取締部に出向いた。

 本当は政宗の方が顔が利くが、何より原田さんと政宗の仲がよろしくない+荷物は運び終わっているがなんだかんだで力を使わせ、潤の腹の傷が開いてしまったらアレだ。

 まぁ潤がそんなタマではないことはわかっているが、本人的にもこっちの方が気持ち的にまだマシだろう。
 多分こっから現場だと荷物なんかより腹の傷に差し支えるけど。こーゆー動きをしないと病院帰りのこいつには酷だ。
 部長と副部長の両方がマトリに取られるのもナンセンスだし。まさしく一石二鳥だ。

 麻薬取締部は、当たり前ながら雰囲気が葬式だった。

 それぞれ、デスクで腕組をして電話を睨んでいる若手がいたり、忙しなく窓の外をチラチラ眺めて歩き回り、原田さんから「お、落ち着かねぇ野郎だなお前!」と怒られていたり、そんな原田さんに「落ち着きなさいよバカ」と、落ち着きながら茶を出している女がいたり。それと、先程からケータイを確認している、先日の赤羽の雀荘で会った青年もいた。

しかしざっと数えて、5人ほどしか捜査員がいない。マトリって、こんなに少ないのか?

 原田さんは俺と目が合うと、「壽美田さん!どうも!引っ越しは?」と忙しなく、待ってましたと言わんばかりに立ち上がり、入り口まで早足で出迎えてくれた。
 他の捜査員も軽く頭を下げてくれた。

「えぇ、まぁ」
「ま、どうぞどうぞ」

 言われて潤と二人、取り敢えず中に入る。

「彼はウチの現場監督官、星川潤です」
「…お忙しい中恐縮です。マトリ部長の|原田《はらだ》|隆義《たかよし》と申します」

 原田さんは手帳を開いて名乗った。

そんな名前だったのか。そういえばフルネームを初めて聞いた。

「改めまして、壽美田流星です」
「なんか変な感じですね。こうして名乗り合うとはね。
 星川さんにも改めまして、ウチの荒川と早坂と山瀬が世話になっています。まぁ、ウチのと言っても元、ですけどね。元気にやってるようで」
「あぁ、はぁ」
「これからよろしくどうぞ」
「はい」
「まぁ挨拶はこの辺にして。
 ご足労頂き痛み入ります。先程お話しした通り、ウチの副部長、|里中《さとなか》|栄《さかえ》が拉致されまして」

 概要はとどのつまり。
 現在、マトリはわりと大掛かりな案件をひとつ追っている。今も捜査員何人かをそちらに派遣し潜入捜査をしている。

 それが|帝都大学《ていとだいがく》の医療チームだそうで、しかし捜査が難航、潜入の延期を検討していた最中、今回の拉致事件が起きたそうだ。

「わりとお前ビンゴってるなぁ、流星」
「自分でも怖いくらいだな」
「まさか、お宅の案件…」

 取り敢えず頷きとまでいかないように営業スマイル。「取り敢えず、」と、促してみることにする。

「副部長さんと連絡取れなくなったのはいつからですか」
「連絡事態は昨晩…潜入捜査中、彼女、設定が研究室のまぁ資料まとめなんですけど、まぁ残ってたみたいで。
 もう一人の捜査員が、今行っている|上條《かみじょう》という若手で。こいつが受付。引き上げようとしたらどこにもいなくて、しかし彼のケータイに彼女のケータイから連絡があったようで。『先に上がる』と。
 しかし考えてみれば彼女の荷物はまだあったはず、変だなぁと引き返してみてもやはりそうで探してみてもいない。
 その時点で外の捜査員と私に彼から連絡が入りまして。どうも帰った様子がなかった。不審だと思い、しかし下手にその場で動くのは潜入捜査員、大学関係者としては返っておかしい。彼にいろいろと聞き出すように命じている間にGPSで彼女の業務用のケータイを探せば、病院の2階のトイレ。これはおかしいと。
 そしたら犯行声明が、里中の私物のケータイから回収した業務用のケータイへ、ウチ宛に届きました。それがこちらです」

『厚労省 麻薬取締部 副部長 里中栄(30)を拉致した。次の要請を待て。
尚、応援要求、その他警察組織の一切の介入を認めず。この要求に従えなければ里中の持つ捜査資料と里中本人を葬る。
アイテール』

なるほど。

 一見稚拙で理解不能だが、だからこそ目的がありありと目に見えてわかる。今回の犯人、恐らくは慣れていない。そしてこの、アイテール。

「何それ」
「ギリシャ神話の…。エレボスの息子だ」

つまりは。

「それってもしかして」
「いや、多分違うな」

確かに。

 なんとなく、いままで過去の事件を巡り巡ればやり口は一緒である。しかしこれはご都合主義だと思い、考えを少し詰めようかと焦る。
 理由がわからない。だとしたらあまりにも、わかりやすくもわかりにくいヒントは目の前にあるのかもしれないが、相手の顔を思い浮かべればより考えが迷宮入りしそうだった。

「…犯人側はそれから?」
「それがこちらで」

 見せられたのはまたケータイ画面。回収したという業務用の里中栄のケータイで、「発信地は?」と聞くと、「はい」と、前回の赤羽雀荘の青年が原田さんの目配せ一つでノートパソコンを開いて持ってきた。

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