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取調室に入れば、少し痩せた會澤はふてぶてしく浅くパイプ椅子な腰掛け、俺を見て薄ら笑いを浮かべる余裕ぶりだった。
互いの妙な闘志に、高崎が黙って息を呑むのが聞こえた。
會澤の向かい側に俺が座れば、會澤は前に腕を組み睨むような挑戦的な目で「久しぶりだなぁ、スミダ」と低い声色で言う。
「相変わらず嫌味な面してやがるなぁ、あ?」
「覚えていてくれて何よりだ。よく言われるよ。あんたは少し痩せたようだな」
「忘れると思ったか?殺しに来いとヤクザに言ったのはてめえだろ?」
「そうだな。で、殺せそうか?」
「出来たらいいな」
「案外素直だなあんた」
「まぁな」
「だが俺にだけか?どうやらあんたあれからトチ狂ってるらしいが」
「そりゃぁ、ふんっ、こんな場所にいたらな」
「まぁな、シャバに戻っても死ぬだけだが平和すぎるか、てめえには」
「そうだな」
「だから足踏んで龍ヶ崎を潰しに掛かってんのか」
「やめろよ、胡散臭い」
ニヒルに笑いながら會澤は人殺しの目で見てくる。「ヤクザは経済を担うぞ若造」と淡々と言って。
「経済ねぇ」
「あぁ。俺一人いなくとも金はある」
「買収したか」
「何をだよ」
鼻に掛けて言うのが煩わしいのでちゃっちゃと、向井の写真を出した。
「なんだよ」
「獄中死のようだ」
「はぁ、そう」
「知ってはいるだろ?|向井《むかい》|蓮《れん》」
「知らねぇな」
「まぁどちらでもいいがな。
どうやらこいつに殺されたようだ」
警備員の写真を見せる。
表情は変わらない。
「それがどうした?」
「谷を逃がした時もこいつだ」
「はぁ」
「まぁどちらでもいいがな。
あぁそう。インサイダーで鮫島は逮捕した。どうだ?経済は回るな會澤」
「嘘を言うなよ笑えるな」
「マジだぞ。ジャーナリストがポロっちまってな。
さぁ、お前の安息の地は一体何処なんだろうな」
「はは、確かに警察署にいた方が死ぬかもしれねぇなそりゃ」
「へぇ、署内か」
會澤は黙った。
黙って俺を見据えてから「ふっ、」と笑ってまた前に寄り掛かり声を潜めた。
「お前には話してやろうか?
お前も俺と大差ないからな」
「そうか」
「白装束に着替えた段階だぞ」
「ご忠告どうも。まだ棺桶まで段階があるようだな」
「当たり前だろ。
お前が追ってるモンは幻、見せられた映画だからな」
「そりゃあ楽しい映画だ」
「策士は策を使えなきゃ意味がない」
こちらも睨み付けてやれば會澤は「良い目してんなお前」と笑った。
「殺し屋の目だなお前」
「…そりゃ、誉め言葉か」
「そうだな。立派な警察ってやつだな」
なるほどな。
「話は終わりか?」
「そうだな」
「二度と面は拝めねぇなぁ。寂しいねぇ。どちらが先に殺られるかな」
確かに。
ここで虚勢を張っておこうか、「てめえだろうな會澤」と。
立ち上がり、「終わりにします」と添島さんに告げれば「は?」と、調書を書いていた手が止まった。
「充分です」
「はぁ…」
だろうな。
不服な表情のままの添島さんと出ようとすれば「壽美田ぁ、」と會澤に呼ばれた。
「|警察《そいつら》なんて滅ぼしてやるよ」
ホントに愉快そうに言った。
…めんどくさいもん背負ったなまったく。
「それには枕は西向きに、ドアからも窓からも離れて寝るのを薦めるわ」
「はぁ?」
「次はお前だと言ってるんだ會澤」
勝った気になるなよ。
寝首を取られるのは確かに、どちらが早いか。
取調室から出れば、「さっぱりわかりませんでしたが」と添島に言われた。
「やはり向井を殺害したのは會澤ではなかった、會澤は何か別で動いているが反感材料だと言うことですよ」
「はぁ…」
「しかも…。
動かしている側からの反感を勝った。恐らく親元はヤクザなんかじゃない、わりと警察に近い人間だと。
まぁ推測ですがね」
概ね間違っていないはずだ。
「そして鮫島を逮捕したと言う虚言には食いついた…」
やはりそうか。
「…そんなものは国勢調査をしてもムダだ。多分かなりデカいモンが空を浮いている」
最早警察すら切られた、鮫島に。
つまりはもう少し権力があるものに着いている。
これは絡んできたな。
いくらあいつをどうしたところでもう、切られた尻尾は動かないらしい。
「この話はここまでにしましょう。犠牲は出したくない」
「はぁ…」
壮大すぎて頭回らないか。
そりゃそうだ、俺だって着いていけない。
とにかくここは終了。後は資料だけ頼んで俺は警視庁を後にした。
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