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 環はキョロキョロと辺りを見回している。環も、何もかもが新鮮なのかもしれない。

 カフェラテとBLTが来ると、環はキョロキョロはやめ、手を合わせてから飲み始めた。

「初めてだな」

 言うだけで、環は俺を綺麗な目で見つめてくる。

「二人でこうやってどこかに来るのは」

 にっこりと微笑んで、頷いた。

「美味い?」

 そう聞けば環は頷いて。

「よかった。病院じゃ、カフェラテは飲めないもんな」

 俺の顔をじっと見つめながら微笑んでいる。妙に、暖かい表情だった。

「美味いよ。また来れたらいいな」

 頷いてくれた。
 よかった。

 途中で環はガムシロップを入れていた。俺のガムシロップもいるか聞いたら頷いた。

 思ったより、環が甘党なことがわかった。

「甘いもの好きだったんだな」

 何度も環は頷く。

「じゃぁ今度なんか買ってくるよ。何が好きなの?」

 そう聞くと、環はメモを取り出して書き始めた。

「たい焼きとわらび餅とチョコレートケーキみたいなやつとバームクーヘン…」

 ラインナップが変わっているな。

「チョコレートケーキみたいなやつ?」

 訪ねるとジェスチャーを始めた。手を輪にしたり、フォークで切る仕草をしている。

「んー?」

 なんだろう。
 環も諦めて、絵で描いてくれた。

「フォンダンショコラか!」

 甘党の味方だろうな、これは確かに。

 環が訪ねるように首を傾げるので、「俺はまぁ…」と言って考えてみる。

「特別買ってきて食べたりはしないけど…わらび餅好きだよ。水羊羹とか」

 そこは同意してくれた。

「そっかぁ、甘いもの好きなのか。フォンダンショコラは甘党の象徴だよな」

 ウチの部署に甘党いないかな。誰かに聞いてみよう。

 少しゆっくりしたところで、会計をして喫茶店を出た。出る頃にはキョロキョロしなくなっていた。

 そこから二人で少し歩いて公園についた。
 その辺にあるような、ブランコと滑り台がある公園。しかし、この公園は…。

「滑り台、使用禁止?
 ブランコも、なんか、何?事件でもあったの?めっちゃテープ張ってあるけど」

 環は首を振ってメモ帳を取り出した。
“最近はみんなどこもこんな感じらしいよ”

「なんで?」

“危ないから。ニュースで見たよ”

「えぇー。つまんねぇな。
 あのさ、タバコ吸ってもいい?あっちで吸うからさ」

 ブランコを差すと頷くが、不安そうだ。

 環はベンチに座り俺は使用禁止のブランコのテープの中に入ってタバコに火をつける。
 久しぶりだ。
 俺がタバコを吸っていると環は、じっと手元を見ている。

「ごめん、一本でやめるよ」

 そう言うと、首を横に振る。そして何かを書いて俺に渡してきて焦り、「いや、ちょっと待って、いま消すから!」と伝えてタバコを消すが、なんだかいじけたような顔をしてしまった。

 なんだろう。
 紙には、“指が綺麗。タバコを吸ってる姿、好き”と書いてあって。

「あ、そうなんだ…」

 こっちは、煙はあんまり喉によくないかなとか色々考えたんだけど、いじけてしまったようで。

 てゆうかこれ、ちょっと…。

「照れるなこれ」

 微笑みかければ、環ははっとした顔をして俯いてしまうけど。俺にはそれがなんだか面白くて、ついつい笑っちゃって。
 少し顔を上げた環のその表情は、なんだかやっぱりいじけてるけど。

「ごめん…だってさぁ…!
環は素直だなぁ…」

 ブランコに座った。
 地面より少し高いけどやっぱり座りにくい。足を伸ばす形になってしまった。どうして、小さい頃は乗れるんだろう。

「ねぇねぇ。ちょっと隣おいでよ」

 ちょっと不安そうで。

「大丈夫。どうやら危なくないから、このブランコ」

 促せば頷いて、テープを跨いで隣のブランコに座った。ホントは、ちょっと低いから座りにくいけど。

「…ブランコって座りにくいよね。けど、たまにはいいね」

 やっぱり環も足のやり場に困ったらしい。少しゆらゆらさせている。

「今日はホントによく晴れてるよ。青空だ」

 環はぼんやりと空を眺めて、こんどは少し悲しそうな顔をした。

「ブランコはさ、きっと空に近付けるような気がしたんだよね。小さい頃。
環には空って何色に見えんの?」

 やっぱり悲しそうだ。だけど地面に枝で書いた字は、“青”で。

「俺はね、」

 “蒼”と書く。

「同じものを見てても違うって、面白いよな」

 少し、環の表情は暖まった。

 そろそろ寒くなってきた。空も、雲で覆われてしまって真っ白だ。朝までの天気はどこへやら。これは雨が降るかもしれない。

「そろそろ帰ろうか。寒くない?」

 着ていた薄手のカーディガンを貸すと、不思議そうな顔をしながらも少し頭を下げて羽織った。

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