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「タオルテキトーに借り」
たぞ、と言おうと寝室を覗けば、潤の横、左手の先には大学ノートが投げられていて、潤は右腕で目元を覆っていた。
喉がひくついているのでわかる、泣いているらしいと、「どした?」と声を掛ける前に正体がわかった。
夕飯レシピ
祥真の手書きの見出しが目に、入った。
「…潤、」
声を殺したような嗚咽のような、返答にならない喉の動き。
気丈そうにしていた潤の一変は俺に酷く、存在を主張してくる気がした。
「最悪水さえあれば3日は持つだろ」
「そうだけどさ、リュウ。ちょっと違うと思うよ」
あぁ、そうだな祥真。
「…あいつは、ずっと、そんなやつだったよ、潤」
その大学ノートを開いてペラペラ見てみれば、一ページ目がオムライス、でもどこもそう。
どうしてだろう。
無駄なく分かりやすく、だけど「ポイント!」だとか、一人でも作れるような祥真のレシピがあった。オリジナルだろうな、「少々」が多い。多分この味を覚えたやつにしか、わからないんだろう。
なぁ、祥真。
死人に口無しって言うんだぜ。
こんなの潤にしかわからないだろうよ、なぁ。ポイントに「先に小麦粉をつけること!」だなんて、お前いつからこんなことやるようになったんだ。
「…いいヤツ、だったよなぁ、祥真」
いつも、そうだ。
「真っ直ぐで濁りなくてさ、自分のためとか、そうじゃなくて。本当はプライドも高くなくて、たくさんへし折られて来ただろうに」
鼻を啜る音がする。
「なんでもかんでも突っ込んでいきやがって、気付いたら遠くて。あいつ、けど絶対にいたんだよ」
敵地で3日行方を眩ましたって、サンフランシスコで密令こなしたって……警察庁で自爆テロを起こそうとしたって。
間違いなく次に会う機会があった。
「なぁ、潤。
どうしたらよかったかな、俺は。いつも、あいつに先ばかり行かれてたダメな、仲間だったけど」
自殺はよそでやれ。
本当はわかってた。そうやって投げ出すようなやつじゃない、ただ鎖がなければ戻ってこないかもしれないと思っていたから。
祥真。
未練はもうねぇなんて、そんなんじゃないからこんな小賢しい物残したんだよな。
お前っていつだってそうだったよ。本当はどこかで絶ち切りたくなんてなかったんだろうって、俺たちは予想しか出来ないでいるよ。
しばらく俺はそのベットに寄り掛かった。潤もずっと大の字のままで。
当たり前ながらその死を断ち切ることなんて出来ない、俺もきっと昔から変わらないよと、どこにも響かずに心の中で言ってみる。けど、断ち切ることに意味を、ここ最近見い出せないでいるんだ。
それは酷く狭い感性かもしれないけれど、俺が感じてきた皮膚感覚、日本の狭さには丁度良いと思うんだよ。
仲間の死を悼む。
誰しもが降ろせなかった銃口は誰かに向け続けられるかもしれない、だが、ここは日本で相手も自分も人間でしか、ないんだ。
俺は終戦に向かおうと思う。
その誰しもを想い、暫く経ってから「潤、」とまた声を掛けた。
「…飯食ってる間にちゃんと終わりの言葉を考えておけよ。水葬か密葬かはまたあとで決めよう」
泣いた目で起き上がる潤に「お前ブスだな」と、笑えるように。
「サボりに行くぞ、部署に」
面々の顔が浮かぶ。あの場所も、もう最後だ。
「うるへぇわ、」と鼻声で言った潤には自然と笑うことが出来た。泣いてる場合じゃない、
…いや、泣いていいよ。だから、行こう。
それからコンビニに寄り、朝飯を潤に食わせた頃には政宗から電話が入った。案の定、部署解散通知の件だった。
「今から行きます」
部署付近で潤が歯を磨きたいだとかほざいたので、給湯室に付き合った。
今日はちゃんとスーツを着せた。
割といつもより遅い出勤にはなったようで、面々はほとんど揃っていたが、みんな勿論、知らない様子だった。
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