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荏田先生は、お店の前に車を停めた。まだ開店はしていない。道が少し狭いので停めにくそうだった。
車が滅多に通らない道だからか、バタン、という扉を閉める音だけでマリちゃんがすぐさま店から出て来た。
私の姿を確認すると、「小夜!」と言って駆け寄ろうとするが、荏田先生を見て取り敢えず頭を下げた。
駆け寄ったのは私の方だった。なんだかマリちゃんを見たら安心した。
「マリちゃん!」
抱きついて泣いた。意外と泣けた。
マリちゃんの優しくて大きな手が頭を撫でてくれる。
「どうも。この度は小夜ちゃんが世話になったみたいで。
あ、雇い主の柏原と申します。まぁこいつらの保護者みたいなもんです。こいつらこんなんなってるんで俺が話を聞きます。どうしました?」
柏原さんも店から出てきたらしい。声のトーンが微妙に低い気がする。
「申し遅れました。私担任の荏田崇人と申します。この度は私の監督不行き届きにつきまして大変ご迷惑をお掛け致しました」
「あ、そーゆー感じなんだね?君、見たところ確かに新任教師って感じだね。
悪いけどさ、まず車1回退かしてくれるかな。そこだとお客さんの邪魔になるからさ。
わざわざ送って頂いたのに申し訳ないですね、あっちに月極駐車場あったと思いますんで」
「は、はい…」
あれ?
荏田先生の車の音がした。そのうち遠退く。
「柏原さん…」
「なんだいマリちゃん」
「わりと怒ってますね」
「いや、まだ怒りゲージは70パーだ。なんせ話聞いてねぇからな」
顔を上げてみると柏原さん、笑顔の裏に相当などす黒さが滲み出ていた。
「なぁんかね、電話対応とかの軽さとかね、そこに車止めちゃうあたりとかね、あとまぁ一番は、かるーく話聞いた内容?がね、もうね、腸《はらわた》今弱火でコトコトってとこなんだよね」
「それってぶちギレ充電中じゃないですか」
「そうとも言いますね。小夜ちゃん、傷心中傷を抉って申し訳ないがあの新任野郎が帰ってくる前に情報収集して深呼吸してもいいかい?」
「は、はい…」
これ、いいえって言えないでしょ…。
取り敢えず涙は一度引っ込んだ。扉を明けてくれたり柏原さんは優しかった。それがとてつもなく怖かった。
出されたリンゴジュースを飲みながらすべてを話終えると、少し怒りが治まったのか治まってないのか取り敢えず浦賀先輩に対しては、
「すげぇそいつ、称賛」
輩に対しては、
「マジで全員連れてこい、まとめてぶっ殺してやる」
だった。そして荏田先生に対しては、
「クソおせーんだけど使えねぇな何してんの?事故ったの?」
だった。
つまり柏原さんの怒りゲージは80%くらいになってしまったようだった。
「まぁ起こってしまったことだからね、仕方ないけどね、真里ちょっと見てこいよ」
「てか、これ先生バックれだったりして」
「マジでそのレベルで遅いよねなにしてんのアレ。クソ程役に立たないんだけど。人が時間取ってんだからさっさと来いよ」
「てか…あんたがイライラするからちょっとびびったんじゃないかな。だって柏原さん怖いもん」
「確かに…。私涙引っ込んだもん」
「えぇ?あんなさわやか営業スマイルだったのに?」
「隠せてないよめっちゃイライラ出てたよ」
「逆に泣くかと思いましたよ…」
元ヤン疑惑が最近浮上中の柏原さん、こんなときダダ漏れするんだよなぁ。
「すみません、遅くなりましたぁ…!」
ちょっと落ち着き始めたそのタイミングで荏田先生、息を切らして登場。腕組をしていた柏原さんの人差し指がピクッと動いた。多分今、怒りゲージが気持ち動いた。
「ご苦労様です。まぁ座ってくださいな。
迷いました?随分長く掛かっていたみたいなんで事故ったんじゃないかって心配してたんですよなぁ真里?」
「えっ。あぁ…はぁ」
「いえ、あぁ、はい…。ちょっと校長に電話で捕まりまして…すみません」
なんでそこ正直に言っちゃうかな、先生。
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