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「そこで何をしてる」

 低めの声が聞こえ、4人が振り返った。岸本さんが立っていた。

「あっ」
「岸本さん…」
「…君は…。
 お前ら、他学年の女の子を廊下で取り囲んで何してんだ?」
「いや、」
「別に…道に迷ってたから」
「浦賀先輩に返す物があってクラスを訪ねたんですけどなんかこの人たち」

 そう言うと4人の視線が一気に私の方に戻ってきたが構わない。

「浦賀先輩、今日いないんですか?どうしても返さなきゃならなくて…」
「…あぁ、教室いなかった?」
「わかりません。彼らは、友達だと聞いたので場所を訪ねたら今から行こうと言われました」
「…へぇ。知ってるの?」

 そう岸本さんが訪ねると、4人は俯いた。

「多分教室には来てないだろうな。いいよ。俺が案内する。と言うわけだからからかわないでくれるかな?」

 岸本さんがそう言うと、4人はそそくさと去っていった。

「…ありがとうございます」
「…まぁこんなこともあるからね、気を付けてね」
「はーい」

 岸本さんが歩き出したので私は後について行く。
 どうやら向かいの校舎のようだ。

 向かいの校舎は、理科室とか音楽室とか、移動教室以外はない。そんなところのどこにいるのだろうか。

「君さ」
「はい」
「名前は?そう言えば聞いてなかったよね」
「あー、そうですね」
「また何かあったらと思ってさ」
「目、つけました?」

 そう言うと岸本さんは笑った。

「違うよ。
 いや、まぁ…そうか。
 さっきのやつらいただろ?」
「はい」
「まぁ浦賀と比べたらなんてことはないんだが、だからこそ余計にあいつらちょっと厄介でね。何かあったらと思ってね」
「はぁ…そうなんですか」
「浦賀関連はわりとね」
「…1年4組の小日向小夜です。夏に転校してきたので実はよく知りませんでしたが、どうやら浦賀先輩は有名みたいですね…」
「まぁ、有名だろうな。俺は2年2組の岸本隆平《きしもとりゅうへい》」
「生徒会長、ですよね?」
「知ってたんだ」

 昨日思い出したと言うか、なんというか。

「なんとなくは…。
 お二人は、仲良いんですか?」
「…どうだろうな」

 それっきり岸本先輩は黙ってしまった。

 岸本先輩に連れられてきたのは、『カウンセリング教室』だった。

「ここ、ですか?」
「…あぁ、多分な」

 岸本先輩は扉をノックして開けた。

「いや、だからさぁ、」

 浦賀先輩が、テーブルに座って足を組み、女の子を前に何かを語っていた。女の子方はちゃんと椅子に座っている。
 そんな姿を見て岸本先輩は溜め息を吐いた。

 ちらっとこちらを見ると浦賀先輩は、「あっ」と、驚いたような顔をした。

「あれ、あんた」
「こんにちは。相談中すみません」
「どうしたの?」
「あ、いや…」

 浦賀先輩がテーブルから降りてこちらに来ようとすると女の子は、泣きそうな顔をして私たちの横をすり抜けてカウンセリング教室を出て行ってしまった。

「あ、待ってよ…!」

 浦賀先輩が呼び止めようとするも、振り向かず早足で掛けていく。
 それを見て浦賀先輩は「あーあ…」と言って頭を掻いた。

「せんせー、ごめーん、またやっちったわ」

 浦賀先輩は、教室の奥に声を掛けた。奥の椅子に腰かけていた30代くらいの短髪だが一つ縛りの女の人が、「あーあ」と、優しい笑顔で浦賀先輩に言った。

「浦賀くん、気が短いんだもん」
「だってさぁ、」
「いらっしゃい」

 せんせー、と浦賀先輩に呼ばれたその人は、私たちにも同じ笑顔で挨拶をして椅子を促してくれた。

「初めまして。スクールカウンセラーの渡辺眞弓《わたなべまゆみ》です」
「1年4組の小日向小夜です。あの…実はそうではなくて…
浦賀先輩、ジャージ、返しに来ました」
「え?」

 浦賀先輩は少し考えてから、「あーね、昨日のね」と思い出した。
 取り敢えず紙袋ごと渡す。

「もしかして洗濯までしてくれたの?」
「え?はい」
「…マジか。真面目だね。ありがとう」
「いや、私の方がありがとうございました」

 渡辺先生が少し疑問顔なので浦賀先輩は、「いやこの子昨日さ、体育着忘れたって言うから貸したんだよ」と言う。
 嘘吐いてる。

「珍しいね」
「まぁね。
 いやー、小日向さん?昨日は色々悪かったね。大変だった?」
「いえ、特に」
「そう。え、わざわざ岸本に聞いてきたの?」
「はい」
「そっか。岸本、ごくろーさんね」

 浦賀先輩は何故か岸本先輩には物凄く冷たい声色で労いの言葉を延べた。岸本先輩は慣れているのか、特に気にした様子もなく頷くだけだった。

「次にさ、あの子来たらせんせーよろしくね。まぁ来なそうだけどさ」
「そんなこと言うけど斎藤《さいとう》さんはなんだかんだで2回来てるよ、しかもあなたの日にあなた指定で。
 大丈夫、思いは伝わってるって」
「だといーけどね。今の高校生は耐性がないからなー」
「いや、あなたも今の高校生だから。
 まぁあなたがちょっと強すぎるんじゃない?」

 そう言って二人は笑い合っていた。斎藤さんとはさっきの子だろうか。

「死にたいなんて言うやつ、俺嫌いなんだよ。そう思わない?
 自慢気にリストカットの痕見せられてもイライラするだけだからここ来んなって」
「お前、もしかしてそれ言ったのか?」

 渡辺先生は苦笑いをして頷いた。それにまた岸本先輩は溜め息を吐いた。

「え?間違ったこと言ってる?」
「うーん、言ってるかも。人によりけりじゃない?悪化する子もいるよ?」
「知らねーよ。手首なんて切ったって死ねないし苛めもなくならないし被害妄想も終わらないから」
「それを言ったら元も子もない」
「お前にはわからないよ、岸本」

 浦賀先輩は最後に私に、「じゃぁね」と言って出て行ってしまった。

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