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薬局に寄って鎮痛剤を買い、大通りを曲がり路地に入れば、アパートが見えた。
ぼんやりと、いつも通りアパートの階段を登ろうとした時。
「うぉあっ!」
ぼんやりが冷めた。
階段の一番下の段に、小学校中学年くらいの少女が一人、傘も差さずに体育座りをしている。思わず声を上げてしまった。
「え?」
少女はそんな俺を黙ってじっと見上げるばかりだった。
なんだこいつは。
「ど、どうしたん?」
「…」
え、え、マジ何こいつ。
「風邪引くから早く家に帰りな?」
そう声を掛けてみれば、少女は首を振って俯いた。
なんだ、一体どうしたんだ。
「てか、びしょびしょやん…」
雨が強い。
こいつ、どれくらいここにいたんだろう。てか、なんでここにいるんだろ。
よく見ると、少女は震えてる。
結構寒いんじゃないか、これ。
「震えてんじゃん。どんくらいここいるの?なんで?」
再び顔を上げた少女の顔に血の気がない事に気付く余裕も出来たらしい。
唇もちょっと紫色になっていた。
「…ちょっと家来る?暖まったら帰るって感じでさ。迷子なら一緒に警察行くから」
少女はただ俺を見ている。
「そこにいても他の人に迷惑かかるしな。立てるか?」
少女はこくりと頷いて立ち上がった。薄い水色地の花柄のワンピースが泥で汚れている。取り敢えず傘を差して二人で二階に上がった。俺の部屋、202号室。
鍵を開けて少女を促すが、入ろうとしない。どうも様子は、服がびしょ濡れなのを気にしているように見えた。
「あぁ、いいよ、仕方ないから。
あ、それか、ちょっと玄関で待ってて」
そういえば彼女のパジャマがあった。取り敢えず、貸してやるか。
思い出して俺はまず、先に部屋に入って彼女が置いていったカラーボックスを漁る。
ちょっと大きいかな。まぁ仕方ない。
ついでにバスタオルも一緒に持っていく。
「ちょっとでかいけど…。
風呂入ったら?服は…はいこれ。洗っとくから」
俺の家はいわゆる1Kというやつで、玄関から入ってすぐ右手に風呂がある。立ち尽くす少女にパジャマとタオルを渡して洗濯かごも近くに置いてやった。部屋へ入り引き戸を閉める。
少ししてから、風呂の扉の開閉する音とシャワーの音がした。
勢いで声を掛けちゃったけど、どこの子だろう…。てかなんであんなところにいたんだろう、一人で。
冷静になってみると、今この状況、かなりおかしくないか?俺もそうだけどまずあいつ。いや、俺も相当おかしいんだけど。
取り敢えず落ち着いて整理しよう。
俺は電気ポットでお湯を沸かし、インスタントコーヒーを入れた。クッションに座ったが、なんか物足りない。
そうか、テレビだ。テレビをつけよう。
テレビをつけたら、なんか2時間くらいの刑事物がやっていた。
えっと、いま俺は自宅でテレビをつけているが。
少女を連れ込んじまったわけで。
まぁそこはなにもしなければいいとしてさ。
『誘拐!?身代金3000万!?そんな額とても用意なん』うるせぇテレビ。消した。なんだこのタイミングの悪さ。
コーヒーをぐっと口に入れたらまだ暑くて吹き出しそうになる。ダメだ、牛乳入れよう。
引き戸を開けて流しの横、部屋から見れば右手前にある冷蔵庫から牛乳を取り出す。左からはシャワーの音。再び引き戸を閉めた。
だいたい尋常じゃねぇだろ。つか、学校とか、どうしたんだろう。
なんだろう、苛められっ子とかかな。例えば、苛められて学校から帰って来て、だけど親にバレたくなくて時間潰してたとか…
いや、むちゃくちゃだな。
あれこれ考えを巡らせているうちに、シャワーの音が止み、扉が開く音がした。
対策を考えるのを忘れていた。
まぁ、さっきあいつに言ったように、警察行くか。このままだと、なんか誘拐とかになりそうだし。
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