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二人で脱衣場に移動する。鏡の前でみっちゃんは昔みたいに髪の毛を乾かしながらすいてくれた。それがなんとなく心地よくて。
「やっぱり綺麗だな髪」
「そう?」
「うん。触り心地が柔らかくていいわ」
そんなときだった。お風呂場の扉が開いた。ふと私も、何を思ったのか振り向いてしまって。
「あっ…」
「えっ」
互いに見つめあい3秒。理解して顔を反らした。
「ご、ごめんマリちゃん!」
「いや、え?いや、いいんだけど…」
恥ずかしくなって逃亡。鏡越しに見えたみっちゃんの顔がもの凄く気まずそうだった。
部屋に戻って紅茶を2杯くらい飲んでなんとか自分を冷ます。
完璧に下まで見てしまった。あぁあ、ダメだダメだ!
少しすると、ちゃんと寝巻きを着たマリちゃんとみっちゃんが部屋に入ってきた。どうしよう普通にしなきゃ。
「小夜、お前ウブだな!」
なんかマリちゃんは笑って隣に座って、肩を組んできた。
「いやまぁ事故だね。たまにね、こんなこともあるよね」
みっちゃん、全然フォローになってない。
「ホントにごめんなさい」
「あー、おもしろい…」
なんかマリちゃん凄くツボ入っちゃってるし!
「もう!」
もういいや殴ってやると思ってマリちゃんの脇腹を何発かグーで殴る。「あー、痛い痛い、腹痛い!」とか言いつつ笑ってる。くそぅ!
「つか光也さんが悪くね?何であそこいたよ、てか隠しきれや」
「いやぁ、マリちゃんのちょっと立派だったんで」
「みっちゃんのバカ{emj_ip_0792}」
「え、え?なんやそれ!」
しばらく三人で言い合い。
「はいはい、俺が悪うござんした!」
最終的にみっちゃんが悪いで収まった。
少しいじけてみっちゃんはお酒を一気に飲み干す。
「あ、つかあんたさ、なんちゅー飲み方してんの!?」
「え?」
ふとグラスを見て、はっとした顔をした。
「ダメだっつったよな」
「あ、いや、これただのスポドリや」
「あ、目元ぴくぴくしてる」
「いや、しとらんしとらん。
だって量半端だったんだもん」
「薄情したな」
そう言うとマリちゃんはみっちゃんのグラスと一升瓶を取り上げた。
「っ…、わかった、やらんやらん!肝臓によくないんやろ?はいやらーん。俺ええ子や」
「どうかな」
「も〜!明日休みなん!飲ませてぇな!」
「ガキかあんたは」
「32です」
「クソじゃねぇか。だいたい店で飲んでるじゃんいつも」
「うー、マリちゃん!」
凄く駄々こねてる。みっちゃん酒癖こんなに悪かったっけ?
ダメって言いつつマリちゃんは氷をたくさん入れて一杯注いであげてる。優しいなぁ。そのままみっちゃんに渡そうとグラスを前に出しみっちゃんが受け取ろうとした瞬間、マリちゃんは自分で一気飲みしてしまった。
「ひっど!」
「お預け」
「このクソ!」
「あーおもしろ。
冗談だよはい!」
今度こそちゃんと手渡ししてあげた。そのコップの水面をじっと眺め、みっちゃんはちびちびと飲み始めた。
「お酒ってそんな美味しいの?」
「物と場所と時による。その人みたいにがーって酔いたいタイプじゃないから俺は」
「んー?」
みっちゃんは体育座りの膝の上にほっぺたを置くように横にいる私とマリちゃんを見ている。なんか小動物みたい。
「酒かー。小夜も大きゅうなったら飲んだらええねん」
「完っ全に京都だな。そこまでってあんまないよね」
「んー。別になんやもう標準語喋らんでもええかなって思うてきたわ。標準語って何?」
「それじゃないのは確か」
てことは。
「みっちゃん、無理して標準語喋ってるの?」
「んー?最初はそうやったかもなぁ。そりゃぁね、よそもんは合わせなあかんなと、なんせこっちはなんも知らんとぽーんとシモから東に出て来てもうたわけや。
いやー、最初なんて食いもんは合わんし胃やられたわ〜って極端に喋るとこんな感じかな」
「急に戻った{emj_ip_0792}」
マリちゃんと息ぴったしで狂いなくハモった。
「おぉ、えらいコンビネーションや」
うん、確かにお互い顔見合わせちゃったよ。
「って言うてもね、18からこっちにいるからわりとこっちの言葉にも慣れてきてるんだなー。
まぁ|質《たち》悪いんがね、あっちにいたのが小さい頃だったから。三つ子の魂百までって言うけどホンマにそれで、多分こっちにいる期間の方が長いってなっても抜けないんだろうな。出ちゃうと思うよ。
今のいけた?」
「ところどころ入ってるね」
「あー。今喋っててもワケわからんわ。なんや難しいなぁ」
「いや、いいよ別に。よっぽどわかんなかったら無視する」
みっちゃんは諦めたように小さく溜め息を吐いてグラスの中のお酒を一気飲みした。
「光也さん、寝るならベットね」
「ん」
と言われているのにソファーに座り直していた。明らかに寝そうになっている。
みっちゃんが吐きに行く前にトイレに行っておこうと思って先に借りた。さっきの紅茶二杯が結構きている。
戻ってくると、真里ちゃんが、「ほら、」とか言いながら、座った状態のみっちゃんを、なんとか寝転がせていた。やっぱりお母さんみたいだ。でも頭を手で押さえながら、「あ、髪の毛伸びてきたね」とか言って顔見て微笑んでる表情とかはなんか彼氏みたい。
「あっ」
まだどうやら意識があるらしく、みっちゃんはちょっと涙ぐんだ目でマリちゃんを見つめて何かを思い出したかのようにフラフラ立ち上がり、トイレに直行した。
あ、吐くの忘れちゃったのねみっちゃん。
「あーあ…まったく」
「大丈夫かな」
「あれ最早クセだから。逆にあれやらんと二日酔いになるみたいよ。多分出てきた頃にはめっちゃ元気になってるよ。
なんかね、飲んで忘れてスッキリするみたい。絶対身体に悪いけどストレス発散みたいだよ」
「うわぁ…」
「まぁ…薬過剰摂取されるよりは死ぬリスクないからまだいいかな」
「マリちゃんやっぱり神だね最早」
気付いたらみっちゃんは歯磨きまでして戻ってきた。どう見ても顔色は悪いが、確かにさっきよりは意識がはっきりしているようだ。
それまでにマリちゃんはソファーに布団を用意してあげていた。
「真里布団で寝るの?」
「うん」
「小夜ベット使っていいよ」
「はいはい。取り敢えずあんたは寝なさい」
「うん、すごく具合悪そう」
「いやいや大丈夫」
と言ってソファーに座り、そのまま倒れるように寝転んだ。仕方ないなといいながらマリちゃんが布団を掛けてあげる。
「あー、やっちまったわ」
「いつもだろ」
そう言いながら頭をぽんぽんと撫でるマリちゃんの目付きがホントに優しくて。気が付いたらみっちゃんは心地良さそうに寝ていた。
「寝ちゃったね」
「俺たちも寝るか。
そだ小夜、明日、行きたいとことかあるか?さっき光也さんと話してたんだけどさ」
「うーん。あ!|紫陽花《あじさい》通りに行きたい!」
「紫陽花通り?」
「うん!みっちゃんに言ったらわかる」
「…わかった」
マリちゃんは布団に、私はベットに入って「おやすみ」と言って電気を消した。
出来ればまた三人で住みたいな。なんて、ふと思った。
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