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「うちにいるか」

 自然に口を吐いた言葉がそれだった。
 小夜は俺のその言葉に驚いていた。

「取り敢えず今日は。後のことはまた考えよう」
「……」

  驚きのあまりに言葉を失っているようだ。そりゃそうか。

「それとも家に帰るか?」

 それには即座に首を横に振った。こんな子供がそれほどまでに帰りたくないって、どんな家なんだろう。

 急展開に驚いて泣き止んだ小夜の頬に残る涙を拭ってやる。目蓋が腫れていた。

「まぶた腫れちゃったな。不細工になっちゃったぞ」

 ここに来て、初めて小夜が笑った。

「したら、買い物いくか!夕飯と、軽く日用品でも」
「にちようひん?」
「うーん、例えば洋服とか」
「高い…」
「取り敢えず今日の分にしよう。歯ブラシとか下着とか」

 女の子ってそんなもんだよな?

「……うん」

 そして俺と小夜は、二人で傘を差して近くのスーパーに買い物に出掛けた。

 歩いている途中、小夜の歩く速度が遅くなった。具合でも悪くなったのかと思って「どうした?」と聞くと、道端、30メートルくらいの距離一面に咲いている紫陽花を見つめていた。

「あぁ、紫陽花?ここ、すげぇよな。」
「あじさい?」
「そう。
 あ、この花。紫陽花っていうんだよ」

 小夜は真上を指した。傘のことかな。

「傘?」
「いっしょ?」
「そうだよ、一緒」

 小夜に言われるまで、ここにこうして紫陽花が咲いているなんて意識もしなかった。ただ、いつも通る道。日常の風景でそれは無意識になっていた。

「キレイね」

 紫、ピンク、青。それが交互に並んでいる。よく見ると、種類も違うようだ。 帰りも小夜は“紫陽花通り”で立ち止まり、一人の時よりも時間をかけて帰った。紫陽花の葉っぱにカタツムリがいたりすることを喜んでいた。

 夕飯はオムライスにすることにした。

 生クリームを入れたりだとか、大層なことは出来なかったけど、ケチャップで名前を書いてやったら喜んでくれた。

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