13
夢の中にいるような、程よい苦しさと微睡み。いつか目覚めるのかな、もしかしたら現実かなと、ボケた頭で期待するのが睡眠なんだと思う。
俺はいつから覚醒したんだろうか。何回朝を迎えたのだろうか。
「今日は雨だね」
嬉しそうに言う静が理解出来なかった。俺は晴れの方が好きだから。
店を設立するまでに3年掛かった。それまでに少しは静も外に出るようになって。絶対に出掛けなかったのに家の前のコンビニ、それから車でスーパー、雨の日だけは昼でも夜でも、俺がいる時間にドライブに出掛けた。全部、俺がいないとまだ外には出れないけど、大きな進歩だった。
「そう言えばさ」
「なに?」
ドライブ中に、昔働いていたケーキ屋付近を通ったから。試しに寄ってみて二人でケーキを買って帰る。俺が知ってる奴なんて誰もいなかった。いるとしても、見てとれなかった。
やっぱりフォンダンショコラを買うんだよなぁ。
「どうしていつも一人で来てフォンダンショコラを食ってたの?」
「昔おばあちゃんが買ってきてくれてたから。なんか好きなんだって言ってさ」
「でもいつも悲しそうだったよね」
「あそこに通い始めたのは、おばあちゃんが死んだから」
なるほどな。
「おばあちゃん、いつもあそこでフォンダンショコラ買ってた。でもどうもね…何だろう、おばあちゃんが買ってきてくれたっていう気持ちもあったからなのかなぁ。味が違う気がする」
「…ふーん」
もしかしてと思って。
次の日、フォンダンショコラを作ってやった。すると、
「あれ?」
「この味?」
「…うん、なんか懐かしい…」
「実はさ、俺あそこでずっと、これ作ってたんだよ。静に会ったときは、たまたま手を怪我して厨房立てなくなってさ。仕方なくレジ打ちやってたんだ」
「あ、そうだったんだ!」
「実はあそこのケーキ屋のレシピにちょっと自己流アレンジ加えてたんだよ。まぁ材料の割合とかね」
「へぇ…確かに、なんか違うと思ってたんだよね」
「でもきっと」
お前のばあさんが会わせてくれたのかもね。それは言わなかったけどさ、恥ずかしくて。
それにしても最近二人で歩いているとさ、スーパーやコンビニや、もちろんケーキ屋さんでも。
夫婦と子供を見かけると、ちょっと意識しちゃうんだよね。
フォンダンショコラを美味そうに食う静を眺めていると、「どうしたの?」と聞いてくるから。
「いや。
これから将来どうしようかなって思ってさ」
「うん」
「俺はもう我が儘通したかなって。あとはどうしようか。やっぱ俺たちってこのまま結婚したり子供生んだりすんのかなってさ」
「う…ん」
「嫌ならいいんだけど。俺はこの温さもわりと好きだから。まぁ…ちょっとガキにケーキ食わしてもいいかなって気は最近してるかなって」
「そっか…」
なんだかあんまり浮かない顔だな。
「私…優しく出来るかな」
「俺もわかんねぇや。出来るかな」
「やってみよっか」
「え?」
「二人でさ、何かやってみようとしたことないね」
「あぁ…そう言えばね」
静からこうやって提案してきたこともなかったな。
「え、てかそれってさ」
「ん?」
「あれ、俺、今然り気無く婚約したかな」
「あぁ、ちゃんと聞きたかったから断ればよかったかな」
なんだろう、なんでだろう。
凄く心地いいな、これ。
「うん、じゃぁ1回断ってね」
食い終わったフォンダンショコラの皿を流しに持ってたら後ろからついてきて抱き締められたから、もう振り返って抱き締めて、壁ドンよろしく壁に押さえつけて激しくキスして撫でくりまわして、もう、またこうやって溺れていく。わかってて誘ってるくせに、「立ったままはちょっと」とかいうから仕方なくベットに連れ込んで押し倒して。
そーゆーのだけは昔から変わらない。乗せるのが上手いんだよなぁ。まんまと乗せられて、それが心地よくて気持ちよくて。
でも不安にもなるんだよ。これってもしかしてずっと、最初から最後まで、独りよがりだったりしてって。
「静はさ、」
「ん…何?」
「俺のさ、何が良くて一緒にいるの?」
耳元で囁いたらそんな不安もちょっとは誤魔化せるかななんて、ホント、狡いことしか考えられなくてさ。
「要さんは…」
気持ちよさに奥歯を噛み締めながら静は言う。
「なんだかんだで物凄く綺麗だよ」
「そうかなぁ」
こんだけねちっこく触っても?こんだけ欲にまみれても?
「うん…」
そんなこと言われるとさ、ちょっと意地悪したくなるじゃん。まだ、体力は持つよ。でもなんか笑っちゃって。
「なんか…」
ふいに耳元に伸ばされた手はいつもより少し暖かい気がして。
「凄く幸せそうだね」
そうなのかな。
「うん…」
そうかも知れない。
「お前も負けちゃいないよ」
「うん」
そう言って微笑む顔がホントに。
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