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風呂から出て来て髪も乾かさず。
スーツはそのままだったなと思い、文杜は取り敢えず脱ぎ捨てたそれを羽織って寝室に向かえば。
空虚に、転がったようにベットに寝転んだ真樹の手元には、まだたくさん残った薬の瓶と空の注射器が転がっていたのは。
なんとなく酷く綺麗だなとは感じたが、切なくて。
ただ本当に残虐なんだと感じた。
「真樹、」
「文杜。
文杜のお願い、俺叶えられる?
叶えられたらさぁ、」
「真樹、」
「静脈に少しでいい、引っ張ってぶっ射して」
なんて。
「ふざけんなよお前ぇ!」
泣きそうだった。
ただ跨がった自分はなんなのか。
笑った真樹が切なかった。
俺ただ。
ただただ邪な純情がどこかにあって。
愛なんて知らなかった。
君もそうだったから。
だけど多分、どこかで。
組敷いた下の髪が、リビングのライトと寝室の暗さに酷く現実的に散らばって綺麗だ。悲しくなるほど、これが現実だ。
「そぅ…れをぉ俺に、頼むだなんてぇ、真樹、なんだって、ゆぅんだぉ、」
残酷なまでに。
震える声。頬に伸ばされた手は右手だった。何もなく、綺麗ですべらかで。
「人でなしだからね」
そう真樹が笑うのがやるせなく。
引き返せないのかと知った。
掴んだ右手は冷たくも湿っている。
どうしたっていつもそうだ。誰一人として聴いていなかったんだ。
この、唄でもない、伝えたくもない悲痛な叫びを。
「…真樹ぃ、」
「…ダメなら、いいんだ文杜。ただもう、俺は何もない。空っぽだよ」
どうして。
ダメだと、文杜は自分でも納得した。
あぁそうだね、もうきっと。
疲れたんだろう。ぐったりだ。
それから髪を弄ぶ右手が酷く情緒に溢れて。
倒れこむように左手を取った、鉄の湿り気。
だけど「よしよし」と頭を撫でるその首筋、そそるように綺麗で、喉仏あんまなくて。
「いいの?」
ぎこちなく頷いた真樹の少しの優しさが痛く。
愛情、友情、惰情、本能、それに全て入り交じり腕の中で頭に、シンプルに一つ思ったのはただ、
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