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 ギターを抱えて学校に行くのは久しぶりだった。

 あれから少しだけ時が経ち、夏が終わろうとしていた。

 西東の鬼のような『Try it 夏の強化合宿』という名のバンド練習。
 という名の夏休みが呆気なく終わってしまい。
 高校って、こんなにハードなの?ハイスクールだけあって、と、真樹は少し夏バテした。

 Try itの様子は、

「はいそこでクラムボンは?」
「笑った!」

 じゃらーん。

何故か特別講師、クソ医者一之江が。
 ホワイトボードに書かれたギターコードの横にこんまくキレーな字で国語の教科書やら理科の教科書片手にしているのだ。

「はいAmコードぉ、」

 ちゃららーん。

「はい酸素記号」
「H2ぅ!」

「はい違う〜」
「連帯責任ミッドナイト・クラクション・べいべー、はい!」

 と、大人二人のハイテンションに。

「ざけんなよ真樹ぃ!」

 バチが飛び、

「教えたよねNaHCO3だよ真樹ぃ!」
「違ぇよ栗村。逆になんでそれわかるんだよ気持ち悪ぃな。よっちゃん、ダメだリチウム追加」
「…最低だね陽介。教職として間違ってる」
「なぁぁう!嫌だ気が狂う!」
「リチウムはどーやって書くんだよクソ医者ぁ!それなのかぁ?」
「あまちゃんそこなの?ちなみに違うよ。
君英語出来る?無理じゃね?」
「ナメんなし出来ねぇし」
「威張ってんじゃねぇよ!俺に水をくれドラム暑すぎるダメだ死…」

 そして倒れるナトリ。

「ナぁトリーぃ!」
「死んだぁ!死んだよナトリウムだよやべぇよ!」
「あぁうるせぇなガキ共。多分脱水だよ。よっちゃんポカリ。お前どーせ箱買いしてんだろ、常温」
「あるある。はいはいっと。ぶっかければいいの?」
「バカ早くしろよ今こいつビーストモードっぽいじゃん。あと真樹、なんか冷たいあれ、保冷剤」
「ケーキのやつでい?」
「強いヤバイ薬処方されたくなかったら枕のやつ持ってこいタコ。あと栗村、ぶっかける氷水」
「ウチみんなバカだから氷作ってない。冷凍の豚肉で良い?」
「買ってこいよ俺の財布からキャッシュ抜け。
 あダメだお前なんか捕まりそうだな。取り敢えず一万…」

 一之江が振り向けば3人、「うわヴィトンとか死ねVテン」だの、「札束バカみてぇ」だの、「焼き肉行くかこれ」だの人の財布で盛り上がっていて。

「うるせぇ早く行けよ猿共ぉぉ!」

 叫んだ本人、「うわっ、めまっ、」ナトリの上に倒れこみ、さらに三人「うわぁぁぁ!」沸く。
 揃って脱水症状、熱中症でダウンしてしまったのだった。

 それからというもの、夏の暑さ対策は万全だった。
 暑さ対策は、万全だったが、ある日はクーラーを掛けすぎて。

「…リアルに腹痛い」
「ほれほ《俺も》、ひアルぃ《リアルに》、ごほっ、か、風邪ってか、は、鼻が鼻声が」

 腹弱い系男子、文杜がトイレに籠り、引き籠りしかし免疫弱い系男子、真樹が夏風邪を拗らせた。

 一之江、呆れ顔で命じる。

「…ポカリと氷枕を持ってきなさい」

 この声の低さにはビーストモードを感じ取り、流石にナトリも西東も、「う、ぇい、」「は、はい」と応じるしかなかった。

「なんでバカはどう頑張ってもバカなの、俺泣きそうだけどこの夏!」
「し、仕方ないよ〜、君頭良いから〜」
「これってちゃうくね?ねぇよっちゃんん!」
「ま、まぁまぁ。仕方ないよ〜、た、楽しいよ〜」

 宥める西東に「お前もだよアホ!」と一之江に「まぁまぁ…」とナトリ、あまり言い返せず止めに入る。

「と、取り敢えずぅ、頑張ろっと…ポカリあるしぃ…ふ、文杜ー、マジどうにかして〜、真樹〜、生きてんの〜?てか声大して変わってないからいけない?ねぇ〜…」

 メンバーそれぞれの元に向かうナトリ。

 つまりは、大して前半では上達しなかったかもしれない結果となった。

 マズイぞこのままではと。
 メンバー3人、夏休み後半は巻き返しに掛かる。
 しかし夏風邪リーダー。思いのほか拗らせてしまい。

 ギターテクニックは、確かに後半なんとか人前には出せるようになったのかも。
 むしろ。

「あれ、すげくねぇ、わりと」

 西東がポロっとそう言うレベルにはなったのだが。

「じーぜぃぃ゛、う゛ぉっぢゅごなだーぁあ゛ぃぃ…」

 より可哀想な喉具合になり。

「つかそれ交ざってる」
「色々MIXされて逆にすげぇわエキセントリックだわ。チバ氏がその人唄うとそうなるのねぇ」
「ゲロ゛吐ぎぞう゛」
「あーわかったわかった。国木田くん、今日は生姜料理。湯船に浸かって。あまちゃん歌禁止。やべぇ。本気のババアだよそれ。誰の歌だかわかんねえよ」
「映゛画の゛」
「いや、あの…」

 一同じわじわと。
 最終的に大爆笑して。

「や、いい、いい、ま、マジ喋んないで、あまちゃん、」
「真樹、それはい、いくらあまちゃんLovers俺でも、り、リスペクト、で、出来ない…!」
「文杜然り気無ぇんだよ、そ、それがま、また、わ、笑っちゃ…
ひっ、ひっひっひ…、やべ、ポカリポカリ、だ、脱水しちゃう」
「ハゲちゃう」
「うっせぇ死ね真樹!なんでそれだけは普通に喋れたバカ!」

 こんな調子で過ぎてしまった。

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