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椅子から降りた。よく見たら制服のままだ。でも、いいや。

一度だけ。
振り向いたら、私の匂いが雨に湿っていた。リビングも、裸足に纏いつくような廊下も、ここにはある。

傘は差さない。玄関は閉める。左足が固まったように動かしにくいよ。

雨が体を貫通して、溶けて逝くような気がする。気持ちいいな。私の身勝手な自由を、許してくれてるみたいだ。

この雨の音、私が求めた形に近い。

私はね、茜兄さん。この音が好きなの。この、何の意味もない単調な音階が。貴方はどう?

目に見える景色も、肌で感じる強い雫も、いつの間にか半分になっていたけど。

もともと私はこうだったのかもしれない。茜兄さんの分の半分と私の半分。でも、残ったのは私だった。

生まれることを拒んだ貴方の勇気。欲しかったなぁ。

私の半分を貴方に残せたかな。

体が寒くなってきたね。やっぱりさ、貴方がいないと私は動くこともままならないの。

ここにいたのはずっと茜兄さんだったんでしょ?ピアノに向かう姿も、指も。

貴方の代わりだったの。だから、私なんて、いないはずだったのに。

貴方のものは耳でもよかった。
目でもよかった。
足でもよかった。
頭でもよかった。

指まで、欲しかったんだよね?

そう思うのは間違っているのに。
元に戻っただけ。
強がってなんかいない。だって私は初めからいないはずだった。

貴方に指を還した後の私は、何も残らなかった。私は、死産だから。

あぁ…やっと公園についた。ここの池は一緒に見てきたよね?とても綺麗で底が深い。

茜兄さん。
一緒になったら、還してくれるよね?

雨の音が、ずっと止まない。

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