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幼き日、小柄でただの上士で勝ち気な一つ年上のその男など嫌いでしかなかった。
武芸ばかりで学に興味もなく、何かと自分に突っかかってくるくせに、思考ばかりでしか勝てぬその幼なじみが、嫌いだったのだ。
「しかし貴方には誰にもわからぬ才がある。貴方は天性で早く覚えるが、高杉くんは少し掛かるが様々を持ってくるのだから、彼を少し待てばいいのですよ」
「…それが|一君万民論《いっくんばんみんろん》でしょうか」
幼いころの自分は師にそう問うたが答えは返ってこなかった。
「ふはははは、」
だがある日、話を聞いた友は笑い飛ばしたのだった。
「何がおかしいのだ高杉」
「いやぁ、で?先生からはなんと?」
「あぁ。『君の理論は実践を知らぬ世迷い事だ、私はそう言った思想や人を最も憎む』と」
「ほー」
「しかし先生は我々には、偉人を斬るなどもう遅いのだと説いたではないか。ならいつだと言うのかと甚だ疑問でしかない」
「なるほど」
「だから私はこう返した、『私の検討違いであったようだ』と」
「そんなことを先生に言えるのは、君しかいないだろうな、久坂」
友人は其れからこうも続けた。
「ならば僕は早速学びに行って見てきてやろうと考える」
「何をだ」
「外国という奴をさ。僕には先生がいうことも君がいうことも甚だ、まだわからないからだ」
確かに高杉は江戸へ遊学し、渡航もしたのだ。
それにしては「江戸の学などおもしろくもない」等という手紙に自分はどう返信をするべきかなどわかるわけはないではないか。
「私が間違っていた、君の言うことは専ら空論でもなかったようだ。米兵を斬れ。躊躇った腰抜けの私と同じ道を歩むのならば、君の絵空事など私は許しはしない」
そうして死んだ師に一層何が正しいのかと久坂は高杉と師の死を志として共に歩んできた筈だった。
だが君も逆らい、だから英国大使館など焼き払ってしまえと言う志だったのかもしれない、いまはよく分かる。
「薩摩は英国とやり合っていると言うのに何を迷うことがあるか、我が藩は遅れを取っているのだぞ」
「我が藩を腰抜けと言うのか高杉。負けぬ戦をするのはただの阿呆だと言うのが何故わからぬか」
「本当にそうなのか見れば良いだろう、」
「…君はいつでも傲っている、過信しているのだ」
「ならばこの場で斬り合うしかないのだ久坂よ」
あのときに井上が止めなければ今頃久坂も高杉も生きていたかは定かでないが、友人は勝利しても尚、「やはり駄目だな」と覆す。
「君の言うとおりだ久坂。納得した。我が藩には何も足りていない。
兵力もままならない、意見もバラバラだ。僕は先生に叱られるだろう」
「勝ったではないか、」
「井の中の蛙大海を知らずと言うだろう、なぁ、」
その言葉には一層訳もわからない久坂だが、ただ一つ言える。
「…おもしろい男だな、君は」
「君もそうだ、久坂」
彼の才に火をつけるのはいつでも自分だったのだ。
「君たちは鬼才となり、この国を見つめて行くのです。それが私の望みでる」
師はいつでも師範であった。
「悔しい、悔しい」
と拳を地面に打ち付け師の首を血肉にしようと決意をしたのは、なにも己だけではないはずだ。
だから、そう。
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