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「は?」
「ナニソレよく意味わかんないんだけど」
「ん〜〜〜…。何から話してええもんかわからんのだけどまぁ荷物を置きにな……。大丈夫だお前の部屋には関係ないはず」
「ちょ、待て、占拠って言ったよな占拠って!」

 どうやら朱鷺貴にはじわじわじわじわと意味が通用したようだ。翡翠としては「この坊主本気で京都の二大勢力(ヤクザ)と手を組みやがったかもしれん」と思い、「すまへんが、」と話を割った。

「…キナ臭い話やろうか和尚殿。今のうちにはっきり言わせて貰うと、そんならわてはここには」
「まぁ待て茶を飲みながらでも聞け。言うてお前は茶屋に帰るんか?そんならまず聞け」
「……あんさん、藤嶋と、…」
「待て仏さんの前での話じゃない、」

 確かに。
 自分でも今一瞬、「藤宮」の名すら口にするのを躊躇った。

 朱鷺貴が不思議なような、本当に読めないような表情をしている。
 感情が先立ってしまった。だがモヤモヤしたまま「わかりました、」と翡翠が吐き捨てたことに「なんなんだ?」と、いつも通り朱鷺貴は正直な反応だった。

 いまは確かに待ちましょう、と目で訴えた翡翠に、「まあそうかい…」と、不服そうながら呟いた朱鷺貴は幹斎を見たようだった。

 「…睨むな」と気まずそうにいう幹斎の様も、完全に的は射ているかもしれない、と翡翠は皮肉に思う。
 ……そもそも始めから自分はこの坊主の首を狩りに来た、それが初対面だったはずだと、冷めていくのも感じた。

「…和尚様」

 墓を出た瞬間に翡翠は、恐らく自分は今、大変皮肉な表情だろうと思ったが、朱鷺貴が振り返るのだから目を合わせられない気もする。だが流されては変わらないのだと「幹斎和尚様」と、はっきり名前を呼んでやった。

「…|私《わたくし》は始め貴方の首を狩りに来た狩り鳥やいうことを忘れないでくださいね。気分によっては不履行でもなくてよ?」
「…だからそれはどういった」
「朱鷺貴、いい。お前を拾ったときの事を思い出したわ…。
 翡翠。偉い坊さんの話だ。
『仏に逢うては仏を殺し。祖に逢うては祖を殺し。|羅漢《らかん》に逢うては羅漢を殺し。父母に逢うては父母を殺し。|親眷《しんけん》逢うては親眷を殺し。始めて解脱を得ん』と、」

 翡翠は重く黙る。
 それには朱鷺貴が「まぁ待とう」と、割った。

「よくわからんから保留。あんたのだらしなさは知っているからな。大体、物によっては俺はあんたを殺す権限があるよなぁ」

 …えらく低くも、朱鷺貴はどこか楽しそう、いや、上気するような声で饒舌なようだと感じ、翡翠は言わなかったことに後ろめたさを感じた。

 知らなくて良いことを伝えると言うのは些か苦い。だが露呈した方が苦い。苦行と言うものかと自分の浅はかさを知る。

 果たして朱鷺貴はどう感じるのかと、翡翠は勝手ながら自分が藤嶋に拾われたときの翻弄を思い出した。

 確かあの時自分は抜け落ちた。姉が死んだ理由を聞いて。聞いていたものと違う、信じていたものと違う、何も疑う気概がないのに翻弄された。そこには勝手な優しさがあったから……。

 いや。

 いまは自分のものなど関係がない、これから起こることに目を凝らせ、耳を傾けろ。朱鷺貴の背中に、何より自分はその立場ではないだろうと翡翠は息を殺す。そう、案外軽いものかも、知れないのだし。

 何を信じるかは己のみなのだ、そう落ち着いてきた気がした。

 朱鷺貴の部屋に入ってすぐ、仏壇が目に入った。
 そうか、と思ってすぐに朱鷺貴は「ん」と手を出してくる。
 何事かと見定めれば「位牌だよ位牌」だなんて言うのだから「はぁ」と渡すのみで。

「枕元にあるのは目覚めが悪いかもしれねぇが仕方ないな」

 ああそうか、そんな思いなのかと翡翠が思えば朱鷺貴は仏壇の前に座り手を合わせ目を閉じる。
 多分、読経してるんだとすぐにわかった。それは精神統一、というやつなのだろうか。

 待っていた。
 朱鷺貴は暫くそうしていたが「で?」と、終わったのだろう、あっさり幹斎に向き合っては「ふむ」と幹斎も一息吐いたようだった。

「何から話すべきかと言えばまずは南堂の話からだろうな。
 翡翠、察しの通り藤嶋からの預かりものだ。だが接点はまぁ、お前の兄の鷹だな」
「…兄などではありまへん。もう、今は。さて私にはこれで貴方を殺す権限はなくなりましたか?」
「さぁな。一種の裏切りかもしれんからまだなんとも」
「裏切りなど私も同じやて、」
「待て、お前は極端だな。まずは事実を伝えさせてくれ」

 翡翠がちらっと朱鷺貴を見れば、朱鷺貴は何か言いたいのだろう、腕組をして横目で自分を見ては、次に幹斎を見た。
 遥かに自分より冷静で、坊主とは感心するなと皮肉に似たものを感じるも打ち消した。

「取り敢えず現状は預かりものをしている、それは藤宮鷹の……知り合いの知り合いらしい男だ。藤宮鷹が藤嶋を紹介した……みたいだが詳しくはいまいちわからない。なんせ藤嶋は会合に儂らを寄せ付けないからな」
「……すげぇあんたが混乱してるのはわかった、全然話が見えない」
「…簡単ですよトキさん。この男あれからヤクザと手を組んでいるいう話やけど、藤嶋が関わるのはいまいちわからない。あの人、今やヤクザでも役人でもないはずやで」
「預かりものは人間でヤクザってとこはわか」
「ちゃうねんちゃうねん、せやから話を聞け。
 いや待て話は合っているような気がしなくもなく……?」
「わかった俺の頭が悪かった。先を話してくれジジイ」
「ふむぅ……」

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