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 要約すると話はこうだった。

 それはここ最近の話だという。ある日突然、藤嶋宮治が数人の土佐藩士を連れてやってきた。

「んで、土佐の坊っちゃんが俺に何の用だ?」

 その男、“|土佐勤王党《とさきんのうどう》”と言う隊を率いる|武市《たけち》|半平太《はんぺいた》と言う土佐の上士らしい。

 どこかで聞き覚えがある話だった。

 藤嶋としては、藤宮鷹から紹介されたと言う。

「…貴殿は昔、京都御所を務めたと」
「はぁ、昔のことはどうでもいいんだけど」

 京都御所。
 つまりは|公家《くげ》の出と言うことになるが。

「ちょい、待ってくだせぇ。
 あん人確か所司代を隠居して今に至りまへんか」
「…違うぞ。あいつは生粋の公家役人だぞ」
「待て待て待てよ、は?待って?あん人反抗期いきすぎて反対勢力になったお父上を殺害し……で、先代がそっちに癒着していた言う」
「あってるぞそこは」
「はぁ!?それが公家さん!?」
「……お前よく知らずと生きてきたな。そうだぞあの男並大抵の才じゃないぞ鬼才だぞ」
「…おいおい待て待てその時点で俺ついていけねぇよ何どゆこと?」
「あ〜……思い出したぁ……。全く興味なかったけど思い出したぁ……。なんや凄い偉い人いたような気がしてきた藤宮の知り合い……。そうか、ヤクザやもんね……」

 藤宮一門に居た際。翡翠はあまり相手を知らずと「暗殺」してきたそれ、なるほどどうでもよくて考えたこともなかったが、そうかもしれないと飲み込まれていく。

 話は更に続く。

 その武市半平太という男曰く、“勤王党”と謳うだけあり勤王思考を、藩として推したい、だから藤嶋を頼ったようだ。

 何故引退をした藤嶋か。
 どうやら藤宮鷹が、土佐勤王党の仲間が一人、「|才谷《さいたに》」と言う男と共に中国へ渡航するという話が出た、というところで漸く二人は鮮明に思い出した。

「|近江《おうみ》の橋渡し!」

 そうだ。
 最後に鷹に会ったそれだ。寺ひとつ火の海にした…忌まわしい話で。
 しかし……。

「何故藤宮と藤嶋が?あん二人は一度大戦争してますけど」
「そこは坊主にはわからんよ、ただ二人して儂に迫ってきた特に藤宮鷹!今でも夢に出るわい、『首飛ばんでよかったなぁ、次は寺かなぁ』とな」
「は?待って、兄……若はあんさんと藤嶋が手を組んだと…」
「やっぱり聞いとったか、あんなぁ、最早不平等条約まんまやねん。こっちと仲良くしたらこっちと仲良くしたそっちとも仲良くしましょう、やねん」
「…俺でも見えてきたぞそれ。えー待って日本ってそんな不平等なこと言われ」
「今はええねん日米の条約なんて。こっちはヤク仏和親条約やねんな」
「言い方おかしいけどで?で?」
「儂はいま火薬作っとんねん」
「はぁぁ!?跳躍しすぎ。うんわかった勤王に戻ろう」
「うん、結果トサキンをうちに置くことになった」
「なんでやねん、あん人らホンマにわてらの目の前で寺一個焼いたんやで頭おかしいやろうて!殺生な!」
「来るもの拒まずやろ?言うたんは藤嶋やったわぁ…」
「…アホなんこの坊主。ねえトキさん」
「うーんそうだね一定でアホやね。子供のようなアホさと大人のようなバカさを持ち合わせとるね…」
「呆れたわ意思弱っ。日本人かよ」

 日本人だよと言う朱鷺貴の一言よりも翡翠は「う〜〜ん……」と自分の処遇も考えた。

「…で、田舎の上士は何故公家と組みたいと?」
「だから知らんわっ。藤嶋すら乗ったか乗らんかわからんが多分乗るぞあの変態。公武合体がなんたら言うとったわ」
「出た公武合体。ようわからんかったやつ」
「天皇幕府仲良し思想だよ」
「あっそ。藤嶋と藤宮かよ」

 いやそうだよと言う朱鷺貴を置き「てことは…」と更に処遇を考える。

「あん人ら何考えてるんか。ようわからんけど火薬作る意味が……。
 まさかと思いますが坊さん」

 最早敬うのは辞めた。そのままぞんざいに「あん火薬はあんさんが作ったんか、」と、怒りが沸々沸いてきた。

「…わからん」
「……近江の寺燃やしたやつ。危うくわてらもあそこで死ぬとこやったし何より人死んだで、」
「それをお前が言うのか藤宮の」
「言い方に気を付けろよ二人とも」

 朱鷺貴が割って入った。
 最早声が震えている気がする。

「…こいつは今うちに居るんだし過ぎたことだし。
 翡翠、取り敢えず一回黙れ。……とも、言えないけど」

 そう言われるのだから黙るしかないのだけども。

「…ハメられたなぁ、」

 そればかりが出ていってしまった。
 呟けば朱鷺貴も幹斎も翡翠を見るのだが、だからどうにも堪えられない。「…始めからかね、」と空しくなるばかり。

「まぁ、わかってることではありますけど、あの……」
 
 ひとつ幹斎に聞こうと思っていたことを思い出し、翡翠はちらっと、朱鷺貴の側にある刀を無意識に見てしまった。

 墓標。
 これは思ったよりも殺伐としていて、だけどと考えたが躊躇った。
 それに朱鷺貴が「なんだよ」と言うのに、いや、やめておこうと「なんでも……」と引っ込める。

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