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「…取り敢えず…整理したい。いや、もうわかっている気がするのです。だから」
「わかった。出て行ってくれ幹斎和尚」

 えっ。

 驚いて翡翠が朱鷺貴を見れば「今は顔を見たくない」と、はっきりと朱鷺貴は幹斎に告げた。

「俺もわりと話を組み立てたい。あんたの話はもう聞いたからいい。
 トサキンはいつまでいるんだ」
「…藤嶋に聞かないとわからない。今日来るぞ。ここのところ、毎日な」
「それも追い返す権限がありそうだな。使えない。他の者達はどうしてるんだ」
「この寺に、儂に何か言ってくれる奴が今までいたか?」
「使えないな。いつもそうだ。考えさせてくれ、それくらい腹は括ってるよな?
 翡翠は取り敢えず小姓なんでここで預かる、のは承知だな。連れて行ったら殺す。
 翡翠、休めお前は」
「…アホなんですか」
「ある一定でな。俺の面も眺めたくないのはわかるがまぁ座れ。お前がどっか行くと碌なことがない」
「…でも、」
「追い返してもいいぞ」

 そう、朱鷺貴が言った。
 何に対してかと一度考え、「え?」と、やはりそればかり。

「いーよ権限、やるよ。そっから決めろよ。後は何がいい?預かったからにはなぁ」
「幹斎和尚」

 口を吐いた。
 この人、どこまで行っても正直で、いっそ怖い、今誰よりも。

「…なんだ」
「…聞きたかったのです、雑談ですよ。貴方は元は、何をされていたんですか」
「…元は?」
「…お考えがあるかはわからないし私の考えすぎかもわからないけれど、武家でしたか」
「……昔の話だ」
「その刀…、」

 朱鷺貴の刀を指す。

「ならば貴方の大切なものかと思う、それをトキさんに預けたのには情やら、なにやらと、関係がない話ですが、武士にとって刀とはそういった己の」
「返したまでだ」

 …予想外に「は?」と言ったのは朱鷺貴も同じだった。

「それほど儂は立派でもない。お前が言うとおり刀は大切なもの、だから返した」
「それ…は、」
「今しかないかな。
 朱鷺貴、それはな。お前の親父の物で、首を跳ねた刀だよ」

 場が凍った。
 だが幹斎は穏やかに「儂が持つものでもない」と答えた。

「道徳に反するか?何故だかあの時渡そうと、思えた。お前はいつか儂を越えるのだから」

 鳥はいつか巣立つものだ。
 翡翠はそう、藤嶋に言われたことを思い出した。
 そうか、ならば自分はと思ったときに朱鷺貴が「…あっ、そう、」と、切ったのだった。

「………許せないな」
「……そうか」
「勝手で」

 これでは、と翡翠が「トキさん」と、話を繋げるわけにはいかなかった。
 わかるような気がするという、勝手なもので。

「…幹斎さんを殺すのはわてです。
 幹斎さん、いつか全てに納得がいったとき、わてはあんたを殺すでしょう」
「…翡翠、」
「いいですか?」

 そう諭して間があったが、朱鷺貴が何か押し殺すように「いいから座れよ、出てけっ、」と怒る。
 相当だと感じて翡翠も幹斎も黙って従った。

 向かい合ってみて、だけど意思は変わらないと翡翠は朱鷺貴を真っ直ぐに見つめるが「っ……たく、」と、目を合わせていられなかったのは朱鷺貴だったようで。

「…お前な、」
「…はい、まぁお叱りを」
「それは俺が言うやつだったんだよ、」

 頭を抱えている。
 …そりゃ、そうだから。

「…だからですよ」
「…はぁ?」
「言いたかったとしたら、黙っていてくださってどうも。でもあんたが言うたら洒落にならへん」
「…はぁぁ?」
「…親と言うのはね、トキさん。それ相当に思い入れがある、多分ね。それはあんたもわかるやろ?」
「……台無しだな」
「面子潰すにはそれくらいで」
「……まるでわかった口を利く。
 だが、だからかもしれないな」

 ふぅ、と朱鷺貴は深い溜め息を吐いた。
 この人に親など殺させるわけがない。

「そしたらわては腹切ります」
「は、」
「決めました」
「やめろよ、」

 わかっている。
 だけど曲げる気がない。

 やはり真っ直ぐ捉えていれば朱鷺貴は歯をきりきりしながら「……胃が痛いわ」と嘆いた。

「考えさせてくれ。頼む。読経したい」
「…わても水浴びしたい」
「ダメ。碌でもない」
「トキさん、百舌鳥はそういう鳥なんです」
「百舌鳥?」
「はい」
「っ……知るか貴様は人だろう、
 あぁあもういい昼寝しろ、休まれバカ!」
「…わかりました」

 優しい人。
 …どうしてもそれは怖い、なのに少しすっとするのが流石は、坊主か。

 昼寝しろと言った本人も結局やり場なくふて寝するその背に少し、罪悪感や、焦燥に刈られる。
 翡翠はいつも通り側で、朱鷺貴の背の布を掴みながら自分も寝ようと試みた。いまはそう、落ち着くまで深呼吸しなければならない。

「…人のことばかりでなく自分のことも考えろよ小僧が」
「禁欲ですよ。
 と言いたいところですが今回はわりと考えましたよ、トキさん」

 そんな世の中になった。

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