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「…藤嶋さま、」
「……南紀の坊っちゃんは近々死ぬだろう。そしたら自然と、お宅ら推しの水戸の坊っちゃんが将軍になる。ここで容堂が動ければ幸い。まぁ、俺にはそんなたまだとは思えないけどね。
何度も言っているが足場を固める。そこには潰し踏み固める要因が出てくる。ここからが味方の役目だよ。
…お前がそこまで出来たら考えてやるよ。俺はお前の仲間の「才谷」の意見に賛同だ。軍力は合って損はない。
俺って親切だな、ははっ。さっさと田舎帰んなよ。
気に入らないもん潰すには親殺すくらいの気概がねぇとなってそう思わねぇか翡翠」
急に振り返り話を振ってきた。
まるで面白いとでも言いたそうな目、表情。引きつる顔の傷に翡翠は答えずにいた。
立ち上がり「じゃ〜ね〜」と片手を降りこちらに歩いてくる藤嶋と、憔悴したように下ばかり見る武市。
はいはい去るよと言わんばかりに翡翠も藤嶋に肩を引かれて堂を出るが「世の中バカしかいねぇな。どう思う?」と、小さな声で問われた。
「…元々救う気なんてないくせによく言えますなぁ、」
「ははっ、バレたぁ?
ありゃぁ行っても反対派潰す程度かな。夢はデカいんだろうけど。遣えるものも知らねぇから神頼みなんだよ、難儀ねぇ」
嫌味かよ。
漸く翡翠の顔を見た藤嶋は「久しぶりだな翡翠」と、微笑んで当たり前に口付けをするのだから舌を噛んでやる。
「痛っ、」と逃げるのに「なんなん?」と不機嫌に返した。
「随分厳禁だなぁ、」
「…なんでここにいるん?気色悪い」
「何言ってんだ第二の親だろ。息子心配して当然じゃねぇかなぁ旦那ぁ?」
横を見て言う。
朱鷺貴が立っていた。
…この人いつもなんで不思議と変な頃合いで居るの全く。
朱鷺貴は何も言わずにこちらを睨むようにして立っている。
「あはは、初めて見た。良い男じゃん」
「……侵入者かこいつは、」
「あい、そうみたいです。案内しなくてええね?」
「良し、許す」
「まぁ帰るけど随分歓迎されてねーなおい。出張だぞこっちは」
「そないなことは男娼がやるもんやで店主。直々に来ようなど些か品がなくてよ?」
露骨に藤嶋は「チッ、」と舌打ちをしたが「痛ぇ、」と口を押さえる。
「あーあー坊さん安心しなぁ、そこの田舎集団は近々ここから出てくよぉ、多分。こんな陰気臭いとこでやってんじゃねぇって言っと」
「早く帰れよクソ野郎」
そう言い捨てた朱鷺貴に藤嶋は「あぁ?」と突っ掛かる。
互いに火に油だなと翡翠は黙って見守ることにした。
「…随分口の悪ぃ坊さんだな。若ぇから仕方ねぇのかねぇ。俺は大人だから我慢するけど」
「二度と来ないで頂きたい、出来れば。来るもの拒まずだけども。次に来るときは家でもなくしたときに」
「そりゃおもしれぇや。親でも殺した時に来るか、なぁ翡翠、」
うわっ、陰険。
と翡翠が思った瞬間に朱鷺貴は5歩くらいをつかつか歩いて藤嶋の胸ぐらを掴み「ぶっ殺されたい?」と聞くのだから「あぁ待って待って、」と止めるしかない。
「調子こいてんじゃねぇよヤクザ風情が」
「いや、この人ちょっと違」
「神様ぁ〜、助けて〜ぇ」
「藤嶋さん大人気な」
「地獄に叩き落としてやるよこの詐欺師」
「やってみろよ似非坊主」
しかし。
ふいに藤嶋が笑い、朱鷺貴にまで口付けするのだから「なっ、」としか翡翠は言えない。
藤嶋は、少しばかりビビってしまったらしい朱鷺貴の掴む手が緩んだ瞬間に逃げるよう、離れた。
「なっっ、」
玄関から出て行く藤嶋は「くわばらくわばら〜」と去って行く。
どうしよ、と思って翡翠が朱鷺貴を見上げれば「あんのクソ野郎ぅぅ!」と、朱鷺貴は間を置いて更に着火したらしかった。
「くわばらぁぁ!!ぶっ殺す、あの変態がぁあ!塩!塩撒け翡翠!持ってこい!あの野郎ぅぅ!」
「あぁあ今何もないですぅう、落ち着いてホンマ、あの人そゆ人」
「知るかぁあ!馬鹿にしやがってあの陰険野郎ぉぉお!」
「間違いねぇです!」
「完璧に直訴だ、会議だ、寺中のやつ呼ぶぞぉお!敷居を跨いだら晒し首にしてやる規律を作ってやるぅう!」
「多分晒し首は無理やけど畏まりましたぁあ!」
騒いでいれば「なんだ一体!」と堂からも土佐藩士が出てきてしまうので「田舎に帰れよこのバカ共ぉお!」と朱鷺貴が吠えるのだから場は混沌。
これは絶対に寺の長閑な風景じゃない。えらく殺伐としている、まるで時世だとどこか他人行儀になってしまう所が翡翠にはある。わて、非常に坊さまに向いてるんやないか、やはりそう思えてきた。碌でもないと、思って居たのだけれども。
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