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 それか、本当にそうでないから甚だわからない…いや、それもあり得ないと言うか、見苦しいなとさえ思ってくる。

「…そうは言ってもじゃぁ、お前はいいとして。あの子は違うんじゃねぇのか」

 それには翡翠もふと、手わすらをやめて黙り混む。

「…………あい?」

 漸く朱鷺貴と目が合った。
 しかし少しの沈黙で翡翠は「いや、」と、目を反らす。
 朱鷺貴からは溜め息が漏れた。

「……は?」

 なんなら朱鷺貴も、意外で面食らってしまった。
 この男がいざというとき、こうなろうとは予想外だ。

「えっ、何君は何、え?何を考えて半年も」
「いや、ちょっ…トキさんが何を言うてるかホンマにようわから」
「相当わかってるよねそれ。え?何混乱するんですけどお前は女と自分を何だと思って生きてんの?」
「うわぁ急にこちらも冷めるくらいに辛辣〜。
 いや、まぁ大抵はそうでもない、他人など何を腹に飼うかわからへんしかしそれは人間誰しもそうであるとして女性は素晴らしい生き物、いやもう神様と言うていいか尊くて奉りたいくらいの存在やてわては考えて生きておりますけれども下等な男と言う生き物はそれに対しお祈りをするんに限ると思うんですよどうこう言うのはね、こちらが言い出すのは最早罪だと思うんですある程度。せやからどうこうは言いたくないので言わないようにするんですよええ。わてほど下等を極めた男なんて尚更なわけでしていやぁ恐れ多い」
「うっわー何それ何言ってっかよくわかんねぇ、倫理観が男前なのか根性なしなのか変態なのか全然わからないけど君、スッゴい喋ったね、いつもクソうるせぇけどちょっと違うね」

 間。
 があれば自然に「ふっ…はははははっ、」と徐々に朱鷺貴のツボが押されてくる。それに翡翠も「うぅ…」と悶絶するしかなく。

「ちょっ、笑いますか普通いやもういいや笑い飛ばしてホンマに」
「ヤバいヤバい、ふっ、ちょっ、待って息、吸えないんですけど!」

 腹まで抱えて笑う坊主に「ホンマに止めてぇ、」としか言えず。

「い、っしゅう、して、ホンマに、気持ち悪い、」
「うわそゆこと言う?
 気持ち悪いって酷っ。あーあーはいはい気持ち悪いですよええはい。そーやね超気持ち悪いです気持ち悪すぎてゲロ吐きそうですねっ!」
「いや、ごめん悪い悪い」

 あまりに朱鷺貴が笑ったせいか露骨に翡翠は機嫌を悪くしたようだ。
 流石に悪かったなと本気で朱鷺貴は思ってきたし、何より話が進まないので「いやごめんって、ホンマにすみませんって、」と謝ってみる。
 でもこんなに怒るってマジでそう思ってんだ、と少し頭によぎるけど。

「……気持ち悪いアホとは話さんでくださいまし」
「ちょっと悪いって言い間違えたって」
「はぁ?」
「うーんとちょっと待って整理ね整理。君はみよさんが好きすぎると言うことがよくわかりました」
「あぁ?」
「…怖いなぁ、ちょっと本気で人を殺さん勢い〜…、」
「何ぃ?」
「チンピラみたいだよぅそれぇ。てかそんなに怒るなって咎めてないんだし」
「知らんわ」

 従者が完璧に口を利いてくれない体制に入った。かなり誤爆した。これでは何日過ぎるかわからず脱藩になって罪に問われる…。困ったなぁとは思うも罪悪感もある。

「…いやまぁバカにしたかった訳じゃなかったんだけど意外だったというかうん、やっぱり特別だと見て取れたから提案するしか、ないなぁ…。どーすんの、崇めてたら終わっちゃうやろて」
「…別に」
「別にでいいのか」
「だって」
「…みよさんどんな人?」
「は…?」

 もうこれは少し時間を掛けよう。

「…なんだっていいでしょ関係ありますか」
「まぁないけど雑談、で」
「よくわかりませんが」
「お前ね、江戸を発つの。子供みたいなこと言ってんじゃねえよて」
「は?」
「…普段なら口は出さないけど、君の頭は猿だって始めからわかっていますから。けど人間だったみたいなんでじゃーあれだうん興味持ったよこれでどう?」

 何故だか。
 逆ギレしてきたようだ。

「…なしてキレ始めたん?」
「キレてねぇよイライラしてるけど」
「キレとるやん」
「キレてねぇよお前の根性なし論には」
「は?」
「キレてんじゃねぇよ猿」
「うーんもうええわ…疲れた」
「大体切れるって何が切れるんだ全く」
「堪忍袋の緒やろ全く。
 わてはわてで別に、てめぇのことくらいてめぇで出来ますので、お坊様と違いまして。お心違い痛み入りますね、旅準備でも致しますから。
 確かに挨拶くらいはしようと思いますよみよさんに。ご用事は以上ですね、では失礼致しました」
「なっ、」

 振り向きもせずに翡翠はどこか、障子をパシャっと閉めて出ていく。

 今回は完璧に自分が悪かったと朱鷺貴は「はぁあぁあ〜、」溜め息ばかりが打ち切れていく。やっちまった。どうしようなぁ…が唖然とする。

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