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 「あぁ、噂をすれば」と言われ再び、翡翠のなかでは勝手に色々が巡り始め、一瞬固まってしまうような緊張に至る。

 「あぁ、清生せいせい」と言う和尚の、少し枯れてしまっているような気がする声にそうだ、この人清生って名前だった、などと過った瞬間には「おや?」と、和尚は翡翠に気付いたようだった。

「あぁ和尚様。丁度でした。おみよさんご苦労様です。京から藤宮さんが」

 あぁ急すぎてそうだった、でも何故か振り向く勇気だとか、そんなものがまだ浅いとぎこちなくなりそうだったが、やはりと翡翠は振り向いた。

 「あぁ、藤宮さん、いらっしゃい」と微笑んだ和尚の柔和さは全く変わらないが確かに少し痩けたように見える。
 その和尚を支えるかのように和尚の袖を少し掴んでいたみよは「え?」と、驚いているようだった。

「あ…あはは…お久しゅうです和尚におみよさん…」

 想定とは違った再会に翡翠はただヘラヘラと手を振るしかなくなってしまう。

 だが自然と立つ衝動はまるで血の巡りのように上がり、なのにぎこちなく側に行こうとする。
 頭は真っ白に近いが、まずはみよの側にいる痩けた和尚に肩の力が抜け、「和尚さん、こんにちは…」と、慈悲深くもなった。

「先程聞きました、夏頃から具合がよろしくないと…」

 何を話すかは最早考えずと出てくるものだ。

「いや、まぁ私はそれほど重くはありませんよ。
 藤宮さん、…なんだか逞しくなられましたなぁ…」

 まるで、久しぶりに会う親戚のようだと思える、経験は浅くとも。

「安心しましたよ」
「…恐れ入ります。
 おみよさん、」

 なのに何故かここで詰まった。

「…翡翠さん」

 みよは変わらずににこっと笑ってくれる。
 途端に少し心が忙しなく、どこか泣きそうになる衝動に至るが、「お久しゅうです、」と言うことが出来た。

「…お父様が、」
「はい。今日は天気もまぁまぁいいので、元気なようです。今しがた顔を見てきたところなのですよ」
「…そうですか、」

 みよは笑って見せるがきっと心労などもあるだろう、そう勝手に思えばよりいたたまれない。

「貴方は優しい青年ですね」
「…いや。
 和尚様はどういうた、あの…」
「少々頭の方がね。ありがとう。まぁ大丈夫です。こうして天気も良いし。
 さて、おみよさん。今日はここで失礼しますね。藤宮さん、お顔が見られてよかったです」
「……あぃ、」
「南條さんにも宜しくお願いします。また是非お立ち寄りくださいね」

 安心ではないのだろうけど、どこかほっとした。
 何故だろうか、まだ不安なのに…不思議と暖かい。

「…はい、伝えます」

 和尚の気遣いよりも先に空気を読んだ清生は「そうですね」と和尚の手を引いていった。

 思い出し「みよさん、」と呼び掛け、「お賽銭しましょうか」と翡翠は持ちかけた。

「二礼二拍手一礼、やて、確か出るときに教わりました」
「はい……あぁ、そうでしたね」

 みよも思い出す。
 翡翠が江戸を去る日に…自分は矢継ぎ早になってしまったが翡翠にそれを教わった。そしてそれはあれから身に付いてしていたことだ。

 二人でそうしてお参りをする。
 不思議と二人とも長かったわりにはほぼ同時に顔をあげ礼をしたのに、願うことは同じなのかもしれないと、気持ちは先程よりすっきりした気がした。

「あれからやっていたんですよ、私」

 そう嬉しそうに言うみよに「ん?」となったが翡翠も思い出した。

「…少し…歩きませんか、池などを」

 照れ臭く手を出そうとしてやめたのだが、みよの方が「はい、」とあっさり手を差し伸べてきたことにふぅ、と息が出る。

 話したいこと、言いたいことは恐らくたくさんあったはずだが、それだけで浄化されるように、まるでなくなっていく、いや、なくなったというよりは溶け満ちたのかもしれないと考えては、少しだけ苦しくなる。

 みよの今は、自分が不自由にしたのかもしれないという気持ちが少し燻っていて、だからどうしよう、わかっている、これだけでよかっただろうと自然黙ったままに手を繋いで側の池を目指す翡翠の気持ちもみよは知らずに「ありがとうございます…」と言うのがいじらしかった。

「来てくれたんですね」
「…はい、その…」
「嬉しいです。まさか、…お会い出来ると思ってなくて、」

 そうだと思う。

「…いきなりで、すんまへん。あの…坊主が行って来いと、」
「そうだったんですね」
「ええ、いや、わてもここへ来てどうというのか、など…考えに考えたんやけど」

 変に詰まるものだ。
 手紙の方が何故かすんなりと言葉が出たような気がする。
 しかしみよが「あはは、」と笑った。

「…ごめんなさいね。
 変な話ですが…私も書いた後に…恐らくそんな気持ちだったのです。すみません、なんだか…」
「いえ、そないなこと、ええんですよ」
「いえ、とても…嬉しいのですがなんだか、悪いことをしたなぁ…なんて思います」
「何も、です。わての方が…、勝手にわてが、なんや急に来てしまったんだし、いや、来ますよ当たり前に。そりゃぁだって…」

 そうやって胸の内が素直だったからでしょう。それをどうやってそのままに出来るというのか。

 …と、考え付けばまた詰まる。

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