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その空太の瞳は急に挑戦的で、スケッチブックを静かに閉じたかと思えば、今度は荒々しさをどこか感じるような粗野さ。
空太は脱ぎ捨てていたジャケットのポケットからハイライトのソフトパックを取り出し、ひょいっと一本自然な動作で上下し、引き抜いて咥える。
空太が何を紡ごうとしているのか、蛍にはわかったような気はする。
「最近どうした?」
やはりきたか。
しかしそれだけ相手が挑戦的であればこちらもそれなりで返すしかないのである。
「どうって」
「いや、」
だがこの男は、
いざって時に蛍の心に踏み込んでこない。
相手の苛つきはなんとなく、肘をついてその先で、筋ばった長い中指と薬指が気怠く嗜好品を挟み、ぼんやりはっきりと蛍を見つめるので蛍にはひしひしと伝わってくる。
正直、この部屋ではあまりタバコを排して欲しくない。だが、ここまで空太が不機嫌なのであれば、それを言うのもセンスがない。自分も執筆時にはまぁ、嗜む程度に吸っているし致し方ない。妥協を要するらしい。
ぼんやりと、蛍の視界の端で陶器の汗が目につき、一口酒を煽る。最早水に成り下がっていた。
ただ、まぁ。
やはりそれでも、その指と|紫煙《しえん》はなんとなく好きだと、蛍はぼんやりと眺めた。それこそ、こんなひりついた二人の距離にぼんやりする程度に。
「蛍、」
呼ばれて、自分は今もしや飲みすぎているのかもしれないと現実を見た気がした。
「うん、ああ最近ね」
「出版社にも顔出してねぇし」
「だって月刊一本だし」
「野山さんが心配してたよ。連絡入れても音信不通だし、あの人生きてんのかなって」
「…は?」
違うだろう。
「野山さんはそんなこと言わないだろう」
今度は蛍の方が偉く挑戦的だ。残りの水を煽って込み上げる。やはりアルコールは飛んでいない。
「いや、野山さんに言われて」
「まぁいい。ネット注文はこなしているけど。まぁ仕事の進み具合なんてこのくらいだよ」
「…参ったな」
実際のところは。
担当から、顔を見てこいと言われただけだ。それが相手に露見するのは空太にとって、いささか気掛かりなのだ。
「お前は俺からどんな言葉が欲しい」
「別に」
どうやら蛍は不貞腐れたようだ。これではこの話はお終いである。
空太からすれば。
彼が、上柴楓が空太に求める芸術の言葉がわからないのだ。だが、それは下手な言い分でしかないのは勿論、自分が一番きっとわかっていて、だからそれを塗りつぶすことが出来る。
その言葉を踏み出せばお互いがお互い、その先がいつも想像が出来ないのだ。
つまりは、自分達に少し勇気がある性格であったら。もやもやはしないだろうが、それで果たしていいのか甚だ疑問なのである。
ただ一言、こんな瞬間ですら、「会いたかった」「俺がお前を心配していた」だなんて、互いに言われる義理も言う筋合いもないのかもしれないと、言えば相手がどんな気持ちになるのか、少し、怖さも手伝っている。
互いに少しは素直ではない。
今回は正直、蛍は空太を試した。空太がこうしてここに顔を出すとわかっていながら。
蛍のそれがわからないから、空太はまったく違う言葉を紡いでしまうのだ。
「茄子は…?」
「…灰汁抜きしてる。けど、そろそろかな」
そこでこの議論は恐らく終了。またいつも通り、詮ない終幕。ハイライトの煙は、二人の間に綺麗に昇っている。
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