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 流れでリビングに上がり込んだ吉田はまず、
「すみませんホントにお騒がせして」
と、テレビを見ながら本当に焼きそばを食っている青年に謝った。

 壁に立て掛けてあるギター、バイトだろう制服。テレビ、テーブル、ベッド。
 テーブルとベットの間に座っていたリュージは「いやまぁ、狭いですけど」と座るのを促してくれる。

 横には水槽があり、何かが泳いでいる。

 伊織は後ろのキッチンにある冷蔵庫を開け、ペットボトルからお茶を注ぎ吉田へ出した。

「あ、あのぅ…」
「同居人の鷹峯竜二《たかがみりゅうじ》です」

 同居人ってなんだ一体。

 伊織が紹介するのに吉田は一発で「ご兄弟ではないんだね!?」とツッコミを入れる。
 伊織の名字は真柴《ましば》だ。

「はい違います」

 伊織がちらっとリュージを見ると、リュージは「あぁ…」と、どこか、テーブルの下あたりから1枚のチラシを取り出し吉田に渡した。

the glass arrive sonic
 3人組のモノクロ写真にはリュージはおらず。

Mr.SUNSHINE
 4人組の爽やかな写真にもいないが。


 吉田は咄嗟に、壁に立て掛けてある赤いギターを意識する。なるほど、趣味は音楽と言った伊織を理解する。

「…焼きそば食いながらで申し訳ないんですけど先に言えば赤の他人で」
「…うわぁ伊織…真柴さん、これはちょっと…」

 大本命、いるじゃん。
 異様な空間に吉田が思ったのはまずそれだった。

「伊織、多分この人に謝るべきだと俺は思うよ」
「やっぱりそういう感じだよねっ、てゆうか君…その、あまりに平然としてて取り敢えず俺はどうしたらいいのか」
「いや正直これが俺の限界っすね。でも場がカオスなのは伊織のせいなんでそいつとあまり口を利かないまま今日はどこかに泊まろうと思って」
「え、え〜……、いや、俺が多分帰るべきだと…と言うかどういう…」
「同じ男なんで気持ちは痛いほどわかりますが、はっきり言いますと多分あんたが夢見てるほど…こいつは俺たちより野郎みてぇだしクレイジーですよ。言っちまいますとここ、俺名義の家なんで。まぁ連帯保証人は伊織だけども。だからってこんなことするヤツなんで」
「ま、マジで!?」

 信じられない。
 今の自分はどういう状況なんだと頭がおかしくなりそうだった。

「あーなるほどね、所謂その…彼氏ではなかった、今日までは、くらいの関係で俺の認識は合ってますか?」
「おっ、えっと」

 「なんかすみません」とリュージが謝るのに「違うよ」と伊織が言うので「えっ、」と「やっぱり」がコントラストした。

「…えっ、と、あのなんかもうどうしたらいいか」
「正規ルートじゃ間違いなく伊織の攻略は無理かなとは確かに思ってたんですがコレはホントに酷いな。伊織はホントに一回くらい刺された方がいいと思う。
 大方、酔った勢いでキメちゃってからずるずる。
 漸く意を決しここまで来たのにも関わらず、といった具合でしょうか」
「うわぁちょっとなんでわかるの待って待ってそれが君たちの常識ってこと!?」
「いや勘弁してください俺も大方同じ感じだろうけどこい…伊織と同じ人種ではないです」
「うわぁさくっと兄弟発言」
「言おうかどうか迷ったんですが多分俺なら言われて殴ってスッキリしたいかなと思ったんで」
「大人だなぁ男らしいななんなのそれ!却って殴れないよね」
「吉田さん優しいっすね。俺なら刺してるどっちも」

 凄く物騒だなと吉田は思うのだがリュージはごく普通に「ごちそうさまでした」と焼きそばをたいらげた。
 かの伊織は、男二人がそんな話をしているにも関わらず、水槽の前で「よしよしお食べ」と魚に声を掛けるのに「何してんの」とリュージが嗜めた。

「ご飯をあげてる」
「わかる。おま……バ…、伊織、まず土下座だろ普通」
「なんか凄く気を使わせてごめんなさい俺が調子に乗ったせいで」

 何故謝ってるのか吉田自身にもいまいちわからず。

「いやまぁ乗りますよねそりゃ。まさかこんなんだと思わないと思うんで。ちょろかったっしょこいつ」
「え、うん、これって怒るべきかなぁ?」
「うーん微妙だけどあんた良い人そうだし怒って良いはず。まぁ絶対悪くないっしょ多分」
「はぁい。伊織ちゃんどうゆうことぉ!?」
「どうしましたか先輩」

 振り向く伊織は確かに吉田のドストライクな顔、純粋そうだし正直好きで、それも流されそうなのだが「どーしましたかじゃなくて!」と怒らねばならぬと吉田は心を鬼にする。

「ま、まぁね、1セフレとしてめんどくさいことこの上ないと思うけどちょっとバカにしてないかなぁ!?」
「してませんよ?先輩は「良いんですか?」に良いと言ったんで今日はなしだな、と」
「あーなるほど理解したよ、俺マジで恥ずかしいじゃん待って、君が純粋なのかどうかいまいちわからないんだけどナニソレっ!?」
「横から口挟みますが純粋ではありますよ、アレなだけで。伊織は宇宙人だと思わないとこれから先、多分やっていけないかと」
「だよねぇ、それは君から助言されなくてもわかってきたよっ!!」
「すんません、なんか」
「謝るなぁぁ!逆に傷付く。君も宇宙人だけど多分良い子だからぁあ!」

 はーはーと吉田が言えば「わかりました意を決します」とリュージが言うのであれ、殴られる方面だったりしてと吉田は少しビビってきたが。

「伊織、取り敢えず出てってくんない?」
「えっ、」

 まさかのそう来たか。
 吉田が思えば「うんそうだね」と、こちらもまさかのあっさり模様。

「私も新宿で良いんじゃないかと思って」
「違うそうじゃない。単純に腹立つだろ。セフレ呼ぶとか何」
「別にしないでしょこうなったら」
「そういう問題じゃない。お前はとことん人の気持ちが」
「何言ってんの?」

 疑問そうに首を傾げる伊織にリュージは少しだけ詰まった。

「…人のことなんだと思ってんだてめぇ」
「人は人だよ」
「あー…えっと…。ごめん長居しちゃったね。大丈夫、俺帰るから。うん、伊織ちゃんごめんごめん、リュージくんもすまないね。ちょっと考えるから。普通に俺も悪い、猿だと思ってくれ。取り敢えず伊織ちゃん、仕事は普通にやってくれたら有り難いかな」
「…まぁ、」
「うんごめんじゃぁね。喧嘩しないでね」

 明らかに引いた態度でそそくさと吉田は帰って行った。

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