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「こっちは宝塚とか、あと…隙間から皇居が見える…くらい。あっちの方があるよ、物」
「ん〜…、一応20万卸してきたけど」
「え?」
「いや用事間違えた感が半端じゃない」
「ギター屋なら電車に乗って」
「わーかった、チャミズは来年でもストラト逃げないからいーわ。取り敢えずあっち行こ…か?ティファニー欲しい?」
「え?」

 リュージは俯いて「いや……」と気まずそうだった。

「その……ノリトさんに言われたんだけどなんのことかわかんなくて調べたんだよねぇ……したらお前ら銀座にいるって言うから…」
「ティファニー?」
「らしい。よくわかんないけど」
「ネックレス?」
「確かにめっちゃ出てきた」
「あとブレスレットとか指輪とか」
「あー…」
「ははっ、」

 伊織は楽しそうに笑った。

「好きにしていいよ。初プレ?」
「あー…確かに確かに…」
「歩いてみたら良いかもよ。初デートみたいな」
「…えぇ〜、これがぁ?」
「じゃぁ帰ろう」
「いや違う違うその…」
「お茶の水でギター買っても良いじゃん」
「…今背負ってんだよね」
「確かに」
「せっかくなら買うかぁ、ティファニー。いや、まぁいいや欲しいもん…」
「ヨドバシでフグのヒーター欲しい。寒くなるし」
「…それこそいつでも買えるけど、ま、いっ」
「でもお散歩もしたい。お話ししながら。ティファニーも欲しい」
「…あぁ、」
「リュージはアクセサリー着けないし、なんならギターは私が買ってあげよう」
「え?マジ?」
「うん、いいよ」
「………今までで一番、今の瞬間がお前のこと好きかもしれない。今のノリなら俺ティファニー買う」
「チョロいな、なーんてね」
「もーチョロくてもいいや。お前もチョロいもん」
「でもなんか、なんもいらないや。手繋いで良い?」
「おぉう、いいぞ、どこに行くんだっ」
「ゴディバ。あっち」

 バレンタインでもなんでもねぇ、全く関係ねぇ、こいつ本当に空腹で生きてやがる。

 「ゴディバとか食ったことねーよ」と言っていれば「私も」と、伊織が手を差し出してくるのでまずは鞄を持ってあげ、一瞬残念そうな顔をした伊織の手を握り返せば「ティファニーティファニー」となんだかんだで嬉しそうなことに、幸せかもしれないと思えた。

 5,400円のチョコレートボックスに、すげぇな銀座。ティファニーは金が足りるんだろうかと思えば、てんとう虫のやつを「欲しい、かわいい」とねだられた。

 然り気無くリュージは「いや、シンプルなのも良いと思う、第一お前の会社、指輪いいんだっけ」と一番シンプルなやつを薦めた。プラチナ104,500円。足りるけど桁がさっきと違う。重さも増で。
 と思えば「あはは〜、いい、それで」と嬉しそうに指を測る姿に、あぁ、浮世離れしていると、何故だかジーンと来てしまった。

 これ、結婚の時とかに本当に考えればよかったな、焦らなくても。けど、そもそもこいつはそうか、こういうことがなかったんだし、いいか、と染々とする。

 付き合って4日目、まさかのティファニー。ホントに度の過ぎた束縛系かもしれないなと、でもそんなこともどうでもよくなってしまった。
 指輪は4日後くらいで届くと言われた。

 さぁ帰ろうかと思えば伊織は久しぶりに自宅とは逆方面の電車に乗り「今のノリなら私ギター買う」と言ったのに「マジか」としか言えず。

「重い?」
「…郵送にして…みる?
 てゆうか、ホントにいいのか?その…色々と」
「いいけど何?」

 あっけらかんと言う伊織に「そうか…」と、どうせならペアリングにすればよかったなと思いつつ、「重いからやっぱ、どうかなって…」と曖昧になる。

「郵送じゃないの?」
「それもそうだけど、そうじゃなくて」
「何が?」
「…付き合って4日とか…」
「出会って4年だよ?」
「うん、その…」
「うん」
「俺で良いのかなと、付き合ってから思い始めると言う小心さが…」
「…うん、いいよ。
 早くすればよかったかな?」
「いや、」

 前から変わらない気も、してくる。

「いや、まぁいいや。前からこんなんだった気がする。目に見えない変化だよな。俺会ったときから多分ずっとこうだ」

 いつから、じゃなくて。
 いつまで、でもなくて。

「知ってるよ。リュージこそ、いいの?」
「いーよ、…うん、いーよ、それがよかった」
「私こそ早くすればよかったね」
「まぁ…そこはどっちもどっちってことで。仕方ないよなと妥協があるのも…恋人なんすかね」

 ある意味セフレの方が条件や制限が多かったかもしれない。

 御茶ノ水橋駅で降りた伊織は「ちょっと卸してくる」と、ギター屋がある通りと反対に向かい、「20万で足りるの?」と言ったが、

「足りる足りる。足りなかったらその場でこれ売るけど足りる」

 と言いながら二人で歩いて楽器屋に向かった。

 「あー、これ思ってたより楽で使いやすいな」と、試し弾きをするリュージはいざ、となったとき、「色、黒と赤どっちがいい?」と伊織に聞いてみた。

「白…水色」

 話を聞いてないし水色は自分が持つのに若干勇気がいるほどズレているセンスだなと思いつつ、まぁらしいな、と水色にした。
 113,850円。ゴディバとティファニー、ほぼ相殺。

 帰りの夕飯で良いだろうと、神保町まで手を繋いで歩き、カレーを食べようと思ったが、昨日食ったなと、一人1,500円くらいのパスタを食べた。

 後日、ギターと指輪は同じ日に届いた。
 彼と彼女の世界はこそばゆく、慣れないまま穏やかだった。

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