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「…いいよ、依田」
亀ちゃんがそんな中、静かに言った。
「…行ってあげる。
けどごめん、結婚はわからない。せめて女房の面して暴れてあげる」
振り向いてから亀ちゃんは立ち上がり、
一息溜め息を吐いて腕を組み、言うのだった。
「その変わり帰ってきたら好きな人にちゃんと告白して。あたしも捨てるからあんたもそれくらい捨てて。
これでどう?依田」
「…えっ、」
「話聞かなくて悪かった。ごめん。勝手に傷付いたのはあたしだよ。
のんちゃんの言う通りではない。あんた結局男だから、さっきちょっと、嫌悪を抱いた。つまり信用してないところが、確かにあったんだ」
「…それはまぁ、」
「仕方ないよね」
初めて会った日、俺酔っ払った君を押し倒したからね。
「全然平気、友達だってちゃんと言うならむしろ平気な顔して連れてけ。返ってその気遣いの方が凌辱だよ」
「…うん、そっかぁ…」
視界が緩む。
俺、何してたんだよ。
何閉じ籠もってたんだよ、マジで。
亀ちゃんが呆れたように「呆れた、」とそのまま気持ちを出してくれて。
「また泣いてんじゃないよバカ。情けないな、男でしょ!キンタマあるんでしょ!」
「うぅ、はいぃ、ありますぅう、」
ふっと。
のんちゃんが笑って。
「ふっ、ははははは!お、おもろっ、おもろっ」
と、ひとしきり腹を抱えて笑ってから「ひっひっひ」と、少し背伸びして俺のジントニック臭い、乾きかけた頭を撫でてくれた。
「…辛かったね、二人して、ひとりぼっちだったんだ」
そののんちゃんの低い地声に。
「の゛っ、んぢゃぁぁぁん!」
その細い想い人に抱きついてしまった。
「あはは〜、気持ちわるーいけど可愛いーね意外と、デカいのに〜。犬みた〜い」
のんびりとのんちゃんはそう言って頭をがしがし、ジントニックを気にせず撫でてくれた。
どうやら察したらしい師匠の「えっ、」が聞こえた。「バレちまったな三味線兄ちゃん」と、見守っていたルーシーさんも一言言う。
「…俺もひとりぼっちだから、なんか二人の辛さ、わかるかなぁ?ね、どうだろ、」
「のんちゃん、」
「ひとりぼっちじゃないから、じゃないから!」
最早気付けば三人で抱き合っていた。
のんちゃん、のんちゃん。
ありがとう、のんちゃん。
ありがとう、亀ちゃん。
皆一人だなんて、俺嫌だったんだ。ねぇ。
「…ちゃんと告白しないとね、兄ちゃん」と言う優しいママさんの一言と、「なんや、な、泣けてきたわ紅葉、」と言う師匠の声。
そっか俺。
ひとりぼっちではなかったじゃんか。
「…じゃ、ちゃんと行こ、依田」
「亀ちゃんんっ、ごめんね、」
「いいよもう。師匠、いつ行くんですか」
それから俺たちは。
宿敵、義母への言い訳を話し合い。
夜はだんだん更けていった。
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