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翌朝、起きたら那由多はパソコンに向かっていた。
早い。6時頃だった。
しかし、声を掛けても返事はないか、「ん」。最早難聴というより物臭だろうが、と少し思う。
「無理すんなよなマジで」
「ん」
こんな調子だ。
心配ながらも取り敢えず、胃薬を常備し、飲んだし、カッターも余分な薬も然り気無く取り上げた。大丈夫。鋏も鋤き鋏しか家にはない。あとはタオルで首をくくるか3階から落ちる以外の死因は…。
「おぉうのぉぉうぁ!」
職場でタオルを畳みながら叫ぶ。
師匠(と俺は呼ぶ)と先輩スタイリストが、「どうした御波」だの「新しいリアクションだね御波ちゃん」だの言うが気にしない。
タオルタオルタオルぅ!
やべぇよわりと家にあったよどうしよ。
「あああタオル、マジタオル、キッチンペーパーだけにすれば、つかズタズタにしてくればよかったなんでこんな真っ白、あぁぁぁ!」
「怖いよ御波ちゃん」
いい歳して赤髪野郎、先輩の高崎満《たかさきみつる》が、
なんだか今日もまた派手なTシャツ(Fuck off USとか書いてある黄色いシャツ。絶対意味わかってねぇ、バカだし)にカットシャツ(そもそもシャツonシャツじゃん。ロゴ変えろよ)とぼろっぼろのジーパンにじゃらじゃら鎖がついたファッション。
内なる俺の声。
なんだソレ。民国かよ最近の民主主義人民共和国かよ。お前クソバンドマン(陶酔系ヤク中に夢見た自分うまいと信じちゃってるサイドギター)かよ、おい。
「どうしたの御波ちゃん」
「いや高崎さんこそ斬新っすねなんすかソレ」
バカ丸出しですけどどーしたんですかそれ。
ちなみに前髪パッツン。何そのセンス頭イカれてる。
「あ、わかるぅ〜?」
何が?
え、なにが?
「いやわかんないっす」と答えれば「ダメだねぇ御波ちゃぁん」とカマ口調。
多分こいつが「御波ちゃん、俺実はゲイなんだ」とカミングアウトしてきても「いや、はぁ、」で苦笑出来る自信があるくらい生理的に無理。生理的にって多分相当。
いやしかし待て。
バカ丸出しバンドマンは調教次第でどーにでもなると俺の海馬(記憶)が語っている。とか脳内批判炸裂。そんくらい今話しかけて欲しくないマジ。タオルで高崎を絞め殺したいなんなら口にあてがって黙らせたい。
「御波、お前マジでツンツンしてるぞ茶髪と共に」
ナイスセンスな師匠でありオーナーの|軽井沢《かるいざわ》|大和《やまと》さん。彼はオーナーだけあっていつでもおしゃれスーツだ、ストライプの。俺も大体、彼のそれに習っている。
「天パなんすしょうがないんです」
「知ってるよ。なんでそんなツンツンしてんだよ」
「あぁぁタオル!
いやぁね、タオルってぇ、タオルじゃないですか。それってタオルってことでしょ!?」
「そうだな」
「え、御波ちゃんぜーんぜんわかんな」
「シャルァァアップ高崎。御波は今殺伐としている」
うわぁ今のシャラップ。
とても心地のいい巻き舌低音でした。ごっつぁんです師匠。録音してたら今晩のオカズでした。残念。
「はぁ、まぁいいや」
「え」
「あそう」
「え、えぇ、よくぅ、わからな」
「シャラップ高崎さん。俺もう疲れちった」
「なっ、」
「うん、相変わらず頭おかしいなお前」
「つか仕事しましょーよ。俺タオル干すんで二人ともタオル干してください」
「よくわかんねぇよくわかんねぇ。御波お前店内掃除ね。高崎お前タオル係。俺外に水撒いてくる」
高崎と二人、「ずるっ!」とハモった。癪だしキモい。
「はぁ?」
その、なんか切れ長な目を寄せて「はぁ?」と低音で言われちゃうと参っちゃうなぁ〜、Fuck off 俺。
「はぁい、やろ、やろ、御波ちぁぁん」
「ですね。高崎さんキモい」
「うわっ、」
オーナー、笑った姿がまた見目麗しい。御歳43歳。首筋の少しの弛みというか筋すら色気になっちゃうとか凄い。笑う口元隠すその手より腕の筋とかマジ色気。ちょっと若者にないわぁ。でもまず目元のちょっとのシワとそう、やっぱ泣き黒子ってやべぇよ。
たまに抱かれたい俺。しかしオーナーなら抱きたい俺。いやどっちもあり。Come back hear!バックはそういった意味ごにょごにょ。
でも結婚指輪、してるんだよなぁ、オーナー。
「ヒドイ御波ちゃん!」
「言うねぇ御波」
「イケイケっすよヤケですよ。人生とかマジFuck」
「はいはい」
「え、御波ちゃんちょっとリビドー」
うわぁ逃げようと、さっさと一人掃除道具を取りに行けば、二人とも仕方なしとばかりに仕事に取りかかる。
「あそうそう」
ふと、オーナー。
水撒きをすぐに終え、掃除やらタオル干しやら資材確認やらをしながら俺を振り返って言った。
「そういや昨日聞きそびれたわ。
お前指輪どーした?なくね?」
げっ。
「えっ」
「あっ、ホントだぁ!」
うるせぇ高崎。
「えええ、お、俺、ほら、は、外してるでしょ、」
「仕事帰りに付けるんじゃなかったっけ確か」
「覚えてなぁい!」
うるせぇ高崎。
「いい嫌だな、つ、付け忘れて」
「えめちゃくちゃ動揺」
「どーしたの御波ちゃ」
「あーあーあー!はい!離婚!しましたぁー!」
ヤケだ。うるせえし。
「えっ」
「なっ」
「はーい解決!」
「バレたかついに」
「えなにがぁ?」
「シャルァァアップ高崎。多分今日中にお前消されるぞマジ」
ははぁ軽井沢様、素敵。その指捌きで俺の癖っ毛をまず治して。
「いや逆に消さないです気持ち悪いし」
「うわぁ」
「ヒドイ御波ちゃん!」
「シャラップ高崎さん。
はいバレバレですが、彼女のアレもバレバレでした」
「えなにそれ」
「アレ?」
「特殊性へ」
「御波、ヤケになりすぎだ。取り敢えずお前看板出してこい。
高崎、あのな、」
あ、肩掴んで奥行こうとかちょっと、
「ずりぃよ!」
「はぁ!?」
「うっ、」
「いいから行ってこいよ後で聞くから!早く!」
「はぁい…」
なんてヒドイ人なの俺を弄んでぇ!(脳内の俺、沸いている)
仕方なく看板を持って立ち上がり、一回店外に出る。
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