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「はいはい、起こしてごめん、てか、なんでソファなの?部屋目の前じゃん」
「んー、聞こうと思って待ってたんだよ」
「なんで」
「いや、今年なんだかんだで初だなって」
それはお前がやっと“クリスマス”を覚えたからだよ、生誕35年目にしてな、お前。
「…確かにそうだけどね」
「勇咲《いさき》くんに聞いたら、クリスマスって卑猥じゃないんだね」
「違うよ」
「誰かの誕生日らしいよ」
「うん…あそ」
そんな事、生誕25年目のあたしでも知っとるわ。
しかしどうしたんだろ急に。
やっぱ新しく覚えたからかな。
依田を見れば寒そうに両手を「はぁ〜」と息で暖めていた。
今時あまりいないだろう、それ。
「寒いねぇ、今年も」
「そうだね」
あたしがタバコを吸い終えれば依田は「はぁ〜、寝るわ」と部屋の方へ歩いた。
「亀ちゃん、暖かくして寝なさいよ」
「あいよ、おやすみ。夕飯どうもねー」
それから親子丼を噛み締め、依田の忠告がなんとなく引っ掛かったので今日はレギンスとヒートテックを着て厚手のスエットで寝ることに決めた。
着替えを用意してシャワーを浴びて考える。
そういやあいつ。
寒がりの癖に防寒具、やっと覚えたヒートテックしか持ってなくね?
いくら大阪がここより暑いからってちょっとおかしくね?あたしなんか年がら年中半ズボンなのに。
まぁいいやと、体とか髪とか洗ってドライヤーをしているうちに忘れた。
てか疲れたなぁ。眠いなぁ。
寝る準備を終えて部屋に行けば、あっという間に寝れた。
幸せ報告を受けたのはそれから2日後、文楽《ぶんらく》東京公演最終日の朝だった。
「明日のんちゃんとデートしてくるよ亀ちゃん!」
それには驚いた。
「クリスマス会やろうだってさ!きっと朝まで飲んでるんだろうね」
「だろうねぇ」
思うところはあった。
「のんちゃん、バンドの後輩とか?」
「そうみたいよ」
にかっと笑窪を浮かべて本気で依田は嬉しそうだった。
のんちゃんは、最近バンド活動をしていなかった。恐らく寂しいだろう。
しかし…。
「凄いね依田。のんちゃんとデートって…」
「いやなんとなーく電話したらさ、「ちょっとやる気になった。買い物付き合ってよ」だってさ」
「ん?」
「なんかねぇ、ギブス欲しいって」
「依田それちゃう。ギブソンや。ピンきりだけど高いやつや」
絶対のんちゃん今金ない。
いや、バンドマンはみんな金ないけど、今絶対特にないはずだ。
「え?高いの?」
「のんちゃん、その手に出た?
ダメだよ買ってあげちゃ」
「なんで?」
「あんたもお金ないじゃん!」
「まぁね。えーでもさぁ」
「100万とかいっちゃったりするかもしれないよ」
「えっ、」
驚愕していた。
でしょうね。お前の三味線がいくらするかは知らないが、多分依田、ギターをナメてるよ。
「三味線よか安い」
「マジで!?」
「いやほら、本体で80、90は当たり前だからね。で、両面に皮張るじゃん?片面30くらいだからね」
「ん?」
三味線と比べたら。
「実は安いのかギター」
「かもねぇ。俺月一で、多くて60ちょい掛けてるからね」
「え、なんで?」
「一月使うとわりと劣化する、下手すりゃ破けるんだよ」
「猫そんなに殺してるの!?」
可哀想じゃん、それ!
「いや、死んだやつを大体使うもんだよいまは。そんな事したら三味線使う人たちはみんな動物愛護団体に殺されちゃう」
「え、」
んな危険な団体ではないでしょ。
しかし、納得。
「ギターのがなんかマシだね…」
「いやいや、俺はなんであの木?の楽器がそんなに高いかよくわかんないわ」
弦?とか言ってる。
仮にもバンド追っかけやってるとか、お前ダメだと思うその知識。てか、
「偏屈!」
「まぁね。だから一緒に見てくるよー」
「てかズルイ。のんちゃんとデートズルイ」
のんちゃん、恋人いないのか。
バンドさんなのに。
「俺もまさかOKだと思わなかった。ねぇこれって付き合っていいやつかな」
「ダメだよ、全ファンに謝れクソ文楽」
「ま、のんちゃんの恋人はきっと音楽だよね」
うんうんと、なんか良いこと言ったったぞみたいな顔して頷いてるけど。
「てか、早く行けよ公演」
「あそうだ。今日はファンに手拭い配る日だ」
「ええ?」
「風習だよ。暖簾みたいなやつ。来年もよろしくみたいなね。“鷹沢雀次《たかざわじゃくじ》”ってちゃんと書いてあるやつだよ」
「へぇえ」
「じゃ!んなわけで明日ね!」
とか言ってちゃっちゃと三味線を持って依田は出勤した。
明日はあんた、デートでしょうが。
「デートかぁ」
いいなぁ。
のんちゃんとデート、inギター屋。
いいなぁ。
ホントに今年はあたし一人かぁ。
ま、寂しくないけどさぁ。
出勤は最早のんちゃんの歌を聞いてした。
やっぱ39男性でこの高い声とか、声フェチにたまらんわぁ。
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