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日頃の感謝。
確かにそれは日本人と言うより、人間らしいことかもしれないと思った。
普段伝えている感謝などではなく、何かひとつ、年一でそう言った、行事として盛り上がろうじゃないかと言う感覚。その習慣。
しかしわからないのは、潤が言っていた変態とアイスランドの関連性だ。興味はあるがまぁ、自分はアイスランドなんて行ったことはないし変態でもないし子供もいない。だが子供と言えば…。
「伊緒」
「はい?」
「なぁ、靴下に欲しいもんぶちこんでくってなんなの?」
「…それ、絶対潤さんですね。
24日の夜から25日の夜にサンタクロースがやって来るっていうおとぎ話です」
「ほー、なにそれ」
「子供たちはそれを楽しみにするんですけど、良い子にしていないとサンタは来ない=夜更かししていたら来ないというものなんです。ていうのも親がプレゼントをこっそり用意してるからなんですよ」
「なんで親は、んな靴下なんかにいれんの?」
「枕元ってのもありますよ。欲しいものを書いておくとくれるって」
そういうものなのか。
「そもそもなんでそんな行事なんだ?」
「いや、わかりませんけども」
伊緒は水滴のついた車の窓ガラスからぼんやりと外を眺めて言う。首筋が寒そうだ。そういえばこいつは防寒具と言えばダッフルコートのみだ。外着は。
スーツとか、そのうち必要だよなぁ。いま正式に雇ってる訳じゃないから私服で来てるけど、なんならいまだってシャツにパーカーだし。サポートのユミルならまだしも、そろそろ考えないとなぁ。
「多分、キリストさんのなんか教えなんじゃないですかね?」
「え?」
「サンタ」
「え、そうなの?」
「いやぁ、正直わからない。俺仏教だし多分」
変な宗教団体にはいたけど。
まぁ、それを言ったら自分もそうなんだけど。
「いまのはテキトーに言いましたからね。あ、でもどこだっけ。アイスランドには本物のサンタクロースの風習あるみたいですよ」
「へぇ…なにそれ」
「不法侵入とかにならないんですかね。あれどうなってんだろう」
「他人なの?」
「よくわかんないけどなんかうん、職業的な」
「マジか」
最早ついていけなくなってきている。
「あ!分かりやすいので言ったらコーラだ!」
「え?」
「トナカイに乗ってる赤いオジサン!」
そう言えば、そんなんいたかも。
「あれ職業!?」
「わかんない多分」
「へぇぇ」
「あ、今日はしょうが焼きにしません?」
「あぁ、いいよ」
とにかくサンタについては触れないのが一番良い気がしてきた流星であった。
しかし伊緒のプレゼント候補は決まった。
環はどうしようか。まぁ、入院していた頃によくあげていたのはスケッチブックと、鉛筆と…。
彼女が、いままで付き合ってきたようなスタンダードな女の子であればテキトーにきっと、装飾品を買えば良い。
しかし少し、ある意味特殊だ。
しかしこの考えもどうなんだ。
俺は彼女が普通じゃない。
普通じゃないくらいに…。
なんだと言う?
特別な、特殊な、そんな。
でも。
もしも。
そう考えると自分はやはり、樹実のように、忘れられないような、そんな存在にはなりたくないと思う。きっと流星の様々なトラウマは樹実のせいで、素敵な、忘れたくない思い出だって樹実のせいだから。
そんなとき自分が前を向けているかを考えたら、きっと、前は向けているけれど、こんな思いは環にはして欲しくないと、そう思うくらいに彼女が大切だと言うことは認めた。
愛とか恋とか、友情ではなく。人として自分は人と関わっていたい、まだ。
そんな物で、良いのかもしれない。何をあげようか。けれどもそう、自分の想いは彼女にある。そこはエゴを越えて、手元に。
それから流星は何をしていても、そればかりを考えてしまった。
しょうが焼きを作っていようが風呂に入っていようが。
あまりにぼーっとしているので、半ば伊緒も環も心配になってしまい、何度か、「大丈夫ですか?」と声を掛けた。何せコーヒーは溢すわ、煙草を吸いにベランダへ出たと思えば帰ってこないわ、風呂も、シャワーの癖にいつもの倍以上時間を掛けるわ、最早何も手に付いていないのだ。
もしや本気で眠いのではないか、疲れているのではないか、この前の部署での15万のヒーターをぶっ壊されたのがかなり痛手だったのか、寒いのか。
しかしどれに対しても「はぁ」だの「ふん」だの「大丈夫」だの、上の空でなんかヤバそうだ。
いい加減ヤバイと思ったのはテレビを点けて消してまた点けたあたりで。流石に「流星さん、」と、環は少し大きめな声を掛けた。しかし、普段より声が大きかったため、咳き込む。
それに流星は漸く、「大丈夫か、環、」と現実に戻ってきたようで。
「今日はどうしたんですか?変です」
「え?」
「上の空と言うかなんか、ふわふわしてます」
本気で心配そうに顔を覗かれ。
不覚にもその、心配する表情や瞳や、覗き込んでくる動作に、やられてしまい。
「あぁ…」
何も考えず本能のまま。
「へっ!?」
「あら…」
伊緒も見ているなか突然、一緒に座るソファの上で、抱きしめてしまって。
自分で温もりを感じて、やべぇ、やっちまったと現実に頭は漸く戻り、心臓が高鳴っていくのがわかったが、今更引くに引けず、と言うか欲望に負けてしまい、自覚してからより一層深く抱き締めた。もう、髪の臭いまで鼻先だ。
唖然としている伊緒が見えた。
しかし伊緒は流星の、なんとも言えない優しい、泣きそうなほどに幸せに満ちたその表情を見て、妙に納得して静かに部屋へ引っ込んだ。
「環」
「流星さん、一体」
しかし、
それ以上、彼は何も言わなかった。ふと離れた胸の音と、見えた表情。自分が映る彼の宇宙のような瞳がなんとも綺麗で純粋で、もう言葉は出ていかなかった。
先に視線を外したのは流星本人だった。
「…ごめん。
先に寝る。おやすみ」
「え…?」
そう言うと彼は顔も合わせず寝室へ消えてしまった。
「え、」
なんなの、それは一体!
理解できない理解できない!
けどどうして。
どうしてこんなに。
嬉しくて、切なくて、なんなの、これは。
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