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 クリスマスイブから祥真の計画は始まった。

 しかし何故だか、車に乗った時点で雲雀はやけに静かだった。
 ちなみにチャイルドシートはない。しかし、取り敢えずおとなしいので後部座席に乗せて出発した。

「雲雀?」

 祥真が声を掛ける。「ん、」と、返事をするが。

「どうしたの?元気ないね」
「だって…」

 そして語る。

「きんちょーするじゃない?」
「へ?」

 似ている。
 思わず祥真は潤を見た。潤は、雲雀を覗き込んだ後に祥真を見つめる。

 笑ってしまった。

「君たち、面白いや」

 堪らない。
 そしてこれからが楽しみだ。

 エンジンを掛ければカーステレオが鳴る。
 潤にしては珍しい曲を聴いている。

「珍しい曲だね」
「なんか俺がリンゴ貸したら変わりに流星が貸してくれた」
「誰?めちゃくちゃ声掠れてるけどパンクでいいねぇ」
「ベンジーじゃない方。好きなんだってさ」
「へぇ」


なぜか今日は殺人なんて 起こらない気がする
だけど裏側には なにかがある気もする でも


 まともに聴くのはそう言えば初めてな気がするが、意外にも優しい曲だ。これはなんていう曲なんだろうかとぼんやりと思う。

 あいつは今頃うまくいっているんだろうか。

「君の上司はなんだか、本当はこんな感じのやつなのかな」

 ふと祥真が言う。どうも、懐かしむような、それでいて何か含みのある、しかし悪意のない、遠い目付きで行き先を眺めハンドルを緩やかに切る。

「俺の昔の仲間は、生きてるのか死んでるのかわかんない、けどもどこか寂しそうでお節介な狂犬野郎だった」
「…へぇ」
「なんか、そいつを思い出すなぁ、この人の曲。なんでだろ。あいつは今頃きっと、それでも生きてるのかなぁ」
「…狂犬ねぇ」

 流星もそういえば、あっちではそう呼ばれていたことがあるらしい。確かに、キレるというかスイッチが入ってしまうとあの男、本気でただの人間離れしたスナイパーでしかない。

 想像を絶するほどに殺戮を繰り返してしまう。しかしあのキレ方、少し解るというか、解りたくもないが、自分も許容範囲を越えてしまえば、気付いた頃には相手を失神寸前までぶん殴っていることがある。あれをアドレナリンジャンキーと、最早疾患レベルだと以前政宗が医務室の担当に聞いたらしいが、確かに。わからなくもない。

 根が素直だとかそう言う問題じゃない。これは多分、わかる人種は相当少ない。例えるならODの時の一過性前向性健忘に似ている。しかし、似ているけどもまた、違うのだ。

 だから平和でいたい。自分は極度の恐怖症なんだと、最早諦めている。

「でもまぁ…。
 もの凄く不器用で、でも純粋な、良いヤツではあった。きっとあれだけは、今生きてたら変わらないんだろうな」

 なんだかそれは。
 まるで流星に似ている。祥真に、「流星もそんな感じかも」と言うと、「なるほどね」と、普段通り笑って返してくれた。

「りゅーせー確かにいーやつだった!怖いけど!潤となかよしだよな!」

 雲雀が突然そんなことを言ったので、一瞬間を起き、祥真は笑いだした。

「あぁ、そう。仲良くなれたの、雲雀」
「うん!」
「俺別にね、あんなんとね、」
「そうだね、腐れ縁だっけ。
 子供と仲良く出来るなんて、意外だなぁ」

 確かに、なんだかんだでうまくやっていた。

「潤のおかげなんじゃない?」
「ちょっと、どーゆーこと」
「ねーねー!今日はどこ行くの!?」

 そんななか雲雀が楽しそうに言った。

「そうですねぇ、まずは…」

 祥真が楽しそうに焦らす。

 それから最初の目的地。
 まずは水族館からスタートした。東京の、一番高いタワーの5階にある水族館。

 そりゃぁもう雲雀は大興奮。潤は、「うわぁ人混みすげぇみんな死ねば良いのに」とテンション最悪。

 しかし、一番人気の大水槽では、サメやエイに圧巻され、「すげぇ」と、はしゃいでいた雲雀も、げんなりしていた潤も、ただただおとなしく眺めていた。

「…初めて見た、でけぇ」
「オレも…」

 蒼が勝っている。反射はしていないのに水槽の前の暗い空間は、何故か蒼を映している。

 二人並んで水槽を眺める姿がとても印象的で。二人が見ているこの景色の共有は、多分俺には無理なんだろうと祥真は少し寂しさを覚えた。

 二人の純粋さは、時に、潤とここ一年近く一緒に居ても感じるこの、たまに刺さってしまうような胸の切迫の原因を祥真は知っているような気がするのだ。

 俺は君ほど綺麗な感情論では他人と接することなど出来ないのかと、いたたまれなくなって雲雀を背中から抱き抱え、そのまま肩車をした。

「わー!なにー!」
「ほらほら掴まって」
「どうしたの祥ちゃん」
「…休日の、パパをやりたいなぁ、なんてね」
「…そっか。
 でも多分それ禁止だよ?」
「えっ」

 見てみれば小さく注意書の欄に書いてある。フラッシュ撮影と観覧の妨げ、イラストは肩車のイラストだった。

 すぐさま祥真は雲雀を下ろし、「…ごめん」と謝ると、「ふ、」と、潤が笑う。雲雀はただ唖然としていた。

「ふははは!ウケる、どしたの祥ちゃん」
「い、いやぁ…」
「あんたよかったね。ホントはダメだけど少しは近付けたでしょ、一瞬、あのサメに」
「…うん…!」
「じゃ、次行こう。あっちペンギンいたよ。あぁ、あとなんかクラゲ展やってるっぽい。金魚もいっぱいいるって」
「それって、おまつり?」
「知らないだろ?金魚って実はな、すげぇいっぱい種類いるんだよ。一匹高いので100万とかのもいんだよ?お前がぶっ壊した流星のヒーター8個くらい買えるよ」
「マジ!?じゃぁ流星に掬《すく》ってあげよう?」
「ははー、多分ダメだけどまぁやってみっか!」

 絶対ダメだろう。

 雲雀の手を取り楽しそうに潤は先へ行ってしまう。

 人混み、嫌だって言ってなかったっけ。
またひとつ、克服だ。

 あぁ、なんだかんだで楽しそうだ。

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