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「湯冷めするよ」
「あぁ、うん」

 そう言うくせに隣に立ち、自分も煙草を吸い始めた。

「考え事?」
「うん」
「そう」
「ねぇあのさぁ」

 試しに踏み込んでみようか。

「祥ちゃん」
「何?」
「祥ちゃんさ、小さい頃は、何が欲しかった?」
「え?」
「うーん…」

 やっぱり少し勇気がない。

「難しいこと考えてんの?潤」
「いや、あの…。
 今日、流星とクリスマスの話になった。ウチにもほら、ガキいるし」
「あぁ…クリスマス…」

 今度は祥真が考え込んだ。

「見つかった」
「え?」
「…雲雀の母親」
「…マジ?」
「ただ…」

 あぁ、これはもしや。

「もう多分、」

 そう言うことか。

「えっ、どうすんの」
「…どうしよっかなぁ。
 一応、高跳びした父親も見つかった。こいつは生きていた」
「…そう」
「雲雀は、蜷川財閥の息子なんだ」

 それは、とても有名な、財閥だった。

「あんなとこの」
「裏金バレて摘発されるんだよ」

 なるほど。
 そう言うことだったのか。
 それはきっと、ニュースになるだろう。

「潤だったら、どうする?」
「え?」
「父親はまぁ、海外でそれなりの暮らしはしている。見つかったらヤバイけど。父親の元に行かなければ雲雀は、多分たらい回しだ」

 それって結局。

「…俺わかんない。正直俺は親に良い感情がない。親戚も、渡り歩いた。最終的にそんなもん捨てて今がある。あの頃の自分はただ、生きてなんていなかった。俺は多分、それでも生かされていたから生きるために生きたくもねぇのになんでもした。
 そうは思うが死ねていない。生きていたいと思うのもまた、死ねない理由のひとつだから」
「…そっか」
「悪かったねこんなゴミみたいな感性で」
「いや、俺と大して変わらないよ」
「え?」

 祥真を見れば、祥真は少し、哀愁を感じる、しかしながらどこか優しい笑顔で微笑みかけてくれた。

 少し、殺気に似ていると感じた。

「で、その上司?とどんな話したの?」

 だが急に優しく微笑んだその笑顔は、いつも通りの祥真だった。

「…あぁ、うん。
 観覧車。観たいって」
「観覧車かぁ…意外とロマンチストだねぇ」
「ね。気持ち悪い。けどまぁ、昔唯一祝ったクリスマスなんだってさ」
「潤、いいねぇ」

 急に楽しそうに祥真は言った。

「観覧車、観よう」
「え?」
「うん、観ようよ。
 けど被るのは癪だから、そうだなぁ…なんかさ、わかった。タワー的なとこってさ観覧車見えて、水族館とかあるよね?」
「え、そう?」
「決めた。
 で、でね?夜、観覧車観てご飯食べよう。あ、遊覧船とかどう?あー、流石に混んでるかな」
「祥ちゃん…」

 笑ってしまった。
 凄い楽しそうだ、祥真が。

「わかった、もう全部、全部好きにやろう。雲雀もさ、もうそんだけやりゃぁ、二度と来ないよ、そんなクリスマス」
「だろ、だろ!?」
「うん、うん」

 子供みたいにはしゃぐ祥真がなんだか凄く新鮮で。

「潤だってさ」
「ん?」
「そんなん、一生ないかもよ?ねえ、そうじゃない?
 昼から遊覧船に乗って水族館ではしゃいで夜景に観覧車なんて、大人には出来ないよ」
「ははっ…」

 多分一日じゃ無理だよ、それ。

「一日じゃムリだね」
「うん、言ってて思った」
「夢みたいだ」
「夢を叶えるのがクリスマスだよ」

なるほどね。
そう言う見解もありますか。

「さて、寒くなってきたよ。寝ようか」
「そうだね」
「今日は良い夢見れそうじゃない?」
「祥ちゃん楽しそうだね」
「うん、すっごい楽しみ。寝れるかな」
「子供じゃないんだから」

 確かに凄く楽しみだ。
 肩を掴んだ祥真の手はやはり少し冷たい。「やっぱ冷えたね」と言う祥真の、だけど嬉しそうな顔が凄く。

今はやっぱりまだ。
こんな形でも生きていると。
そう言えてほっとする自分がいる。

 擦れていてもいい、情緒不安定だろうが、どれだけ欲情に包まれて愛などなかったとしても生きていた自分が結局こうして、ただ呼吸をして寒空の下タバコ吸って、美味い飯作ってもらって柄になく赤の他人のクソガキのクリスマスプラン考えてるだなんて。

 なんて、普通の日常。
 だけど、なんて満ち足りているのか。
 昔味わった幸せをまたこうして拾い集められるとは。

雲雀、思うにお前は。
多分俺よか恵まれていて。
まぁ何を持ってして恵まれているとか難しい話はわからんがしかし。
多分俺より断然強い生き物であることは確かだから。
きっと大丈夫なんだろう。

 そう信じたい。
 健やかな雲雀の寝顔を見て潤はそう思った。

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