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 子供と言う生き物の相手はホント、死ぬほど辟易とする。改めて潤は、自分にはコレとわかり合うだなんて無理だ、そう思った。
 いやわかり合う合わないではない。最早コレは別の生き物なんじゃないかと思えてならない。

 いくら潤が無視を決め込んでも、「これすげぇ!」とか言って拳銃を持ってくるわ、昔の警官時代の制服を見て「おまわりさーん!」とか言ってるわ「何これホンモノ!?」と言ってこれまた警察手帳をパカパカパカパカ、いい加減うざったい。
 最終的に、「魔法使ってハウル|警部《けいぶ》!」と言われ頬をつつかれた瞬間にブチキレた、「なんじゃぁァァァ‼」と、頭を抱えてテーブルを蹴らん勢いで立ち上がり、しかも拳銃を片手に発狂してしまった。

 あまりの潤のキチガイぶりに当の雲雀も、放置していたがそれでも見守りつつ軽く遊んでいた祥真も潤の警官制服片手に唖然。

「なんっ、なのコレは!えぇ!?」
「じゅ…潤、怖い…」
「怖いよ怖いよ俺が怖いよなんなんだよコレ!こいつ!メンタルどうなってんだよ俺ヤバイ死ぬ!死んでやる…嫌だ嫌だ嫌だぁぁ!」

 そう断言して、雲雀を指差して一人トチ狂っていると。

「…え、」

 雲雀は泣くでもなく、本当に唖然とした、最早ショックなのかなんなのか、取り敢えず切ない表情で潤を見つめて小さくそれだけ漏らして立ち尽くした。

「あ…」

 それを見て潤も潤で少しばかり頭が冷えてしまったようで。
 さっきまで雲雀を猛烈な嫌悪で指差して震えていたその指は別の震えで弱々しくなり、次第に下げた。

 お互いにどうしたらいいかわからない、重い空気が流れてしまった。

 この表情。
 あまりクソガキには、似合わないもんだなと、なんとなく幼い頃の自分を潤は思い出す。

 多分自分はいつでも、こんな、
親にこんな表情で。
 そしてこんな表情の時は大体。
 自分を攻めていたり、凄く悔しかったりよくわからない憎悪なのかなんなのか、取り敢えず寂しい思いだったような、そんな気がする。

「…潤、」

 祥真の声が優しい。
 今のうちかもしれない。

 もう一度潤は、雲雀に手を伸ばしてみたが、思いのほか手が震えていた。誤魔化すように雲雀に手招きをすると、雲雀とばっちり目が合う。その雲雀の肩を祥真が軽く叩く。

 重い足で一歩、近付いてきた少年のその頭を、ぎこちなく、撫でた。
 途端に雲雀は潤に抱きついてきたので、表情はわからなかった。

 どうしていいかわからない。突き飛ばしたい衝動に駆られるが、今度の祥真の瞳は少し、強い。頭を撫でながら軽く、抱き締めるには至らない抱擁をしてみると、少しだけ祥真の口元が緩んだ気がした。

「ご…めん、」
「え…?」

 雲雀は驚いて顔を上げる。少し泣きそうだったようだ。

「いや、あの…」
「…オレも…ごめんなさい」
「え?」
「無視してたから、からかいたくなった」
「はっ、」

 黙って頷く祥真が見える。
 初めて潤は、雲雀の目線に合わせてしゃがんで顔を眺めてみた。

「…あっそう」

 よく見れば黒目が綺麗で。活発そうだけどなんとなく整った顔立ちかも。そんなことをぼんやりと思って。

 少し視線をずらせばその感じに似合わず、小さな拳を握りしめていたから。
 取り敢えずその手は握ってやり、「可愛いくねぇガキだな」と、そんな一言しか出てこなくて。

「まぁ…いいけどさ」
「え?」
「別に、いいけど…」
「…オレここにいても、いい?」
「は?」
「だって…」

 雲雀は助けを求めて祥真を振り返る。祥真は黙って雲雀を見ているだけだった。
 再び潤を見て、困った表情。思わず潤は溜め息を吐いた。

「何言ってんのあんた」
「だって、」
「ダメって言ったらどうすんの」
「うー…」
「うーじゃねぇよ。仕方ないでしょーよ。わかったよ勘弁してよね」
「だって」
「うるさいなあ、ガキは黙って大人の言うこと聞いてろよバカ」
「ば、バカってなんだよ!」
「バカじゃん、あんたバカじゃん」
「なんでだよ!」
「あーうるさいうるさーい!」
「はいはい二人とも」

 どうやら埒が明かなくなりそうだ。
仕方なく祥真はそれから二人の手を取り繋がせ、

「散歩でも行こう。寒いから雲雀はジャンパーを取っておいで。
潤も、早く暖かくして、ね?」
「わかったー!」

雲雀は祥真の言うことは素直に聞くらしい。どこにあるのやら、寝室の方へ雲雀は駆けていく。
 が、一度振り返り、「潤のバーカ!」と言い残して寝室に消えた。

「んのガキ…っ」
「ふっ、」

 思わず祥真は笑ってしまった。それに潤は奇妙な感情で見つめる。一体何がおもろいの。沸点がわからないんだけど。

「ははは!ウケる!潤にバカだって!なかなかセンスあるね、あれは将来出世すんなぁ…!」
「なにそれ」
「潤、」

 そしてなんだか言い知れぬような優しさで見つめられ、ふと手を伸ばされて条件反射的に目をキツく一瞬瞑ってしまったが、ふわっとした手の感触が髪を撫でて、恐る恐る目を開ければ、それはもう、慈しむような眼差しで自分を見ていて、目が合い微笑まれた。

「よく出来ました。ひとつ克服だな」
「え、うん、はい、いやぁ…」
「なに」
「まだちょっと…」
「まぁゆっくり。大丈夫。潤は繊細だから少し、時間が掛かるだけだから」
「はぁ、はい」

 なんだかよくわからないままで立ち尽くしていると、そのまま祥真に頭をポンポンとされ、なにかと思いきやふと、トレンチコートとマフラーを取ってきてくれた。

 あれよと言う間に潤は肩にコートを掛けられ首にマフラーまで巻かれた。どうやら本当に散歩に行くらしい。

「あぁ、どうも…」
「出来たよ!」

 そんな間に雲雀も嬉しそうに万全装備で現れる。どうやら心の準備が済んでいないのは自分だけらしい。

「はい、潤、」

 そう言ってふんわりと一度抱擁される。

あぁ、これは思い出す。
あの人を。何処と無く。

「はーやーくー!」

 雲雀は自分の手を引いている。
 そうか、そうなのか。

「行こう」
「…うん」

 そういうことなのね、祥ちゃんと、心の中で納得した。

 だから俺なんだ、多分。
 なんだかんだで考えてくれていたんだと、祥真の背を見て漸く、納得したような気がした。

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